臨床試験に対する新しいアプローチ:アダプティブデザイン

Last update: 16 10月 2020

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はじめに

伝統的な臨床試験のデザインに関する枠組みでは、新しい各治療法は厳格な開発プロセスを経なければなりません。第Ⅰ相臨床試験を無事に終了した後、十分な有効性および安全性を示すために第Ⅱ相臨床試験が必要になります。この有効性および安全性が確認された後、薬剤は第Ⅲ相臨床試験に移行し、標準的な治療薬と比較されます (対照試験)。各治療薬に関して個々に上記手順を実施するため、長い期間、多くの患者、大規模な資金が必要になります。さらに伝統的なアプローチでは、臨床試験の実施中において変更は許可されません。

臨床試験のデザインに対する新しいアプローチの 1 つは、アダプティブデザインです。アダプティブデザインを用いる臨床試験では、1 つ以上の試験の特定の事項を変更するための事前に計画された機会が用意されています。この変更は、試験中の参加者から得た暫定的データの解析に基づいています。

臨床試験でアダプティブデザイン (またはアダプティブな手順) を用いるということには、多くの理由があります。経済的な調整が求められる状況では、アダプティブデザインは製薬業界、学術研究機関、医師、患者さんにとって魅力的であると思われます。

アダプティブデザイン

アダプティブデザインでは、比較的柔軟な臨床試験のデザインで、プロセスを合理化し最適化するために試験の途中で変更が可能となります。蓄積されつつある臨床試験データの解析は、試験期間内のあらかじめ計画された時点において、完全な盲検下または非盲検下で、公式な統計的仮説検定の適用の有無にかかわらず行うことができます。そこで重要なことは、試験の正当性および完全性が影響を受けない方法に限定して、プロセスを変更できるということです。

アダプティブデザインはその複雑さのために運用上の難題をもたらすおそれがあり、試験のアダプティブ化の過程でバイアスを生ずるおそれがあります。このバイアスは、例えば、適応化により試験の結果が特定の方向を指し示すことが示唆されるというような統計学的または手続き上によるのものである可能性があります

アダプティブデザインには、臨床試験依頼者および参加者に対して試験の効率性を改善できる可能性があります。しかし、適正に実施されない場合、アダプティブデザインを用いた臨床試験は解釈や実臨床への転用が困難な試験結果を生ずるおそれがある、というリスクが高まります。

希少疾病におけるアダプティブデザイン

希少疾病に関する臨床試験は、通常、小規模であることが必要です。小規模の臨床試験の計画においては、特に希少疾病を対象とする場合には、幾つかの困難を生ずるおそれがあります。小規模の臨床試験は大規模な試験よりもばらつきがあります。これは、標準的なデザインでは大きな効果に関してだけが適切に評価できることを意味しています。

希少疾病の試験に対する特定の要求事項から、とりわけアダプティブデザインが魅力的な存在になります。希少疾病にとって伝統的な試験は、通常大きな効果に関して威力を発揮します。実際に効果がある場合、統計的検定の検出力とは、効果を検出するための力です。統計学的な用語で表現すれば、正確に帰無仮説の棄却をもたらす可能性があります。

真実だからという理由ではなく、否定する十分な証拠がないという理由で、帰無仮説を棄却できない場合があります。臨床試験が帰無仮説を棄却するほど十分に大規模でないという理由による場合があります。そうした場合、検出力は第二種の過誤 (実際は誤っているのに帰無仮説を棄却しない) を引き起こさない確率として説明できます。

アダプティブデザインは、次のような理由により魅力的な選択肢を提供します:

  • アダプティブデザインにより、正当性または有効性を犠牲にすることなく開発プロセスを短縮できる
  • より早期に効果のない治療を特定できる
  • アダプティブデザインにより、より効果的な資源の利用が可能になる。

しかし、希少疾病を対象とする場合、アダプティブデザインによりできることとできないことを認識することが重要です。最も重要なことは、アダプティブデザインにより、治療をより効果的にすることはできないということです。しかし、アダプティブデザインにより早期に効果のない治療を特定できます。そうした早期の特定により、効果のない治療の試験に配分される資源を最小化し、資源をより有望な治療に再分配することが可能になります。

アダプティブデザインによる可能なアプローチ

「アダプティブ」という用語はデザインの多様な組み合わせを網羅していますが、その大半は単純な構成に従っています。アダプティブデザインによる試験では、学習および確認の段階があり、複数の試験設定(第I相、第II相、第III相)による臨床開発の全プロセスと類似したアプローチをとります。その結果、仮説またはデザインのパラメータに対して変更が加えられる可能性があります。

学習段階:

  • 主要なデザインの要素が変更されることがある (例えば、治療群の打ち切り)。
  • 統計学的な不確かさ (例えば、バイアス、ばらつき、誤った選択)
  • 治療効果の推定 (有益または有害)

確認段階:

  • 統計学的な誤りおよび操作によるバイアスのコントロールが最も重要
  • 第一種の過誤を強力にコントロールすることが必要 (例えば、実際は効果がないのに、治療の有効性を発見すること)。

アダプティブデザインが最も共通して用いられる試験は、無益 (治療または試験が有益な結果を全くもたらさない場合) または有益であるという理由で、早期に打ち切る規則を備えた試験です。

こうした規則はあらかじめ設定されており、1 つ以上の中間解析により検証されます。こうした規則により、有益な効果をもたらさないか、または安全でない薬剤の服用を、参加者に止めてもらうことができます。最も重要なことは、試験の薬剤が対照薬剤よりもより効果的であることが明らかな場合、より効果的でない対照薬剤の投与を継続することは非倫理的であるということです。無益な薬剤に関する早期打ち切りの規則により、より効果のない対照薬剤の投与を中止することができます。

また治療群が試験の途中で打ち切られるか、目的のバイオマーカーに基づいて部分集団が選別されるデザインも存在します。

例えば結果が有望であると思われる場合に患者集団のサンプルサイズ増加するなど、サンプルサイズの再評価が可能なデザインもあります。

直感的に魅力的なデザインのもう 1 つの例は、無作為化のアダプティブ化です。このデザインでは、より大規模な患者集団が「より良い」群 (1 群の場合) で治療を受けます。このアダプティブデザインによる試験は、治療効果を推測する純粋な中間解析に基づいています – 解析によりどの治療の参加者に分配するべきかがわかることを意味しています。

アダプティブデザインによる試験の例

例 1:逐次群計画

逐次群計画は、無益または有益に関する早期中止の規則を備えた第Ⅲ相臨床試験の典型例です。下図に描かれている臨床試験例では、患者さんは第一選択薬として1 つの薬剤の単独投与または 2 つの薬剤の併用投与からなる投与法のいずれかに無作為割り付けされます。

すべての試験結果が収集される前に、臨床試験を早期に中止するための解析を行うことができる 2 つの中間段階があります。臨床試験を中止できるのは次の段階です:

  • 段階 1 において、無増悪生存率 (PFS) – 患者が特定の癌の増悪なしで生存しているか否か – に基づいた無益性に関して
  • 段階 2 において、全生存率に基づいた無益性または有益性に関して。

逐次群計画は、他のアダプティブデザインがより一般化する前から使用されていたため、アダプティブデザインについて考える際にしばしば忘れられてしまう事例です。試験デザインに先がけてアダプティブ化の機会が計画されており、この結果、複数の検定を実施する際の検出力および第一種の過誤あるいは逐次検定が比較的調整しやすくなります。全体の検出力および第一種の過誤が維持されます。

例 2:複数-群、複数-段階デザイン (MAMS)

複数-群、複数段階 (MAMS) 試験は、アダプティブ応デザインを利用した無作為化比較対照試験を実施するための新しい枠組みです。

MAMS 試験により、単一対照群に対する複数の研究治療群の同時並行評価が可能になります。MAMS 試験により早期に答えが得られるため、従来のデザインによる一連の試験よりも費用対効果は良くなる可能性があります。

この例では、複数群および複数段階を同時に使用するデザインを見てみます。

MAMS デザインでは、最終時点および中間時点主要評価項目を必要とします。最終時点の評価項目は、最終的な結論に基づくものです。中間時点の評価項目は、新たに生じた証拠に関するスクリーニングの手段を提供します。

上の例における最初の中間解析では、新治療 2 が対照群と比較して十分な利益がないとみなされ、段階 2 に進みません。2 番目の中間解析では、新治療 1 および 4 に対する募集が中止され、対照群および 新治療 3 のみが試験の最後まで継続され、第Ⅲ相臨床試験に進みます。

MAMS デザインの有利な点:

  • より少ない患者
    このデザインでは、いくつかの試験が同時に実施され、対照群に無作為に割り当てられる患者の数を削減するのに役立ちます。
  • 薬剤の発見に必要となる全期間がより少ない
    MAMS デザインの中間段階が独立した第 II 相臨床試験にとってかわります。薬剤が十分に有効であるかどうかの判定は、この臨床試験にパイロット段階として組み込まれています。
  • 必要とされるアプリケーションおよび承認はより少なくてすみます。
    複数の臨床試験の代わりに一つの臨床試験に関して薬事関連業務が実施されます。
  • 柔軟性
    興味の対象とならない群を打ち切り、新しい群を追加できます。
  • 削減コスト
    この試験デザインに必要となる患者、薬事規制に関するアプリケーション、全期間はより少なくてすみ、開発の経費を抑えるのに有効です。

MAMS デザインの不利な点:

  • 手順の特性
    このアプローチの複雑性が原因で、デザインの過程で多くのシュミレーションが求められたり、それらを管理することは難しいかもしれません。
  • 必要となる患者数
    患者数は手順の特性により異なりますが、臨床試験の途中で治療群が追加される場合、予算および薬事規制に関する問題を予測することは難しいかもしれません。
  • 試験期間
    治療群が追加された場合、いつ試験が中止されるかを予測することは困難になります。
  • 対照群への継続的な登録 (募集)
    新しい治療群が追加された場合、時期によるバイアスを回避するために、試験期間中は対照群の募集を継続する必要があります。もし試験期間中に新しい標準治療が利用できるようになった場合、起きることを考慮する必要もあります - 対照群はまだ意味を持っているでしょうか。
  • 試験群間の比較
    各治療群および対照群の間の比較ができるのは MAMS デザインだけです。各治療群の間の比較は MAMS デザインではできません。

例 3:途切れのない第Ⅱ相/第Ⅲ相デザイン

途切れのない第Ⅱ相/第Ⅲ相デザインは希少疾病の症例でよく使用されます。「組み合わせ試験」とも呼ばれます。以下の例では、デザインの最初の段階で患者は無作為に 3 つの治療群に割り当てられます (後期第Ⅱ相臨床試験)。最初の治療群は対照群で、患者は標準的な治療を受けます。2 番目および 3 番目の治療群の患者は、異なった治療、Treatment 1 または Treatment 2 を受けます。

最初の段階の終わりに (後期第Ⅱ相臨床試験)、Treatment 1 および Treatment 2 は最も優れた無増悪生存率 (PFS) であるかどうかで比較されます。最も効果の低い治療群は打ち切られます。他の治療群は、引き続き第 2 段階に進みます (第Ⅲ相臨床試験)。この段階では、標準的な治療に対して有効性の比較が行われます。

途切れのない第 II 相/第 III 相デザインの有利な点

  • バイアスの最小化に対する支援
    両段階は独立して実行され、両段階の結果はすべての試験結果の最後に結合される。
  • 時間の短縮および患者さんへの曝露
    第Ⅱ相臨床試験および第Ⅲ相臨床試験は、1 つの臨床試験として実施されます。
  • 比較的柔軟
    最終的な比較対照に用いる治療群を第 II 相臨床試験部分で選択し、第 III 相臨床試験部分で利用する方法は、比較的柔軟です。
  • 効果的な資源の利用
    第Ⅱ相臨床試験および第Ⅲ相臨床試験の患者さんあは最終結果に対するデータとして貢献します。

デメリット

  • 複雑な統計解析
    このデザインは、それほど単純ではない統計学的特徴を必要とします。
  • 患者募集の中断
    試験を継続するかしないかを決定する中間解析を実行するため、十分なデータを収集するのを待つ間、2 つの相の間の患者の募集には中断が生じます。
  • 手続き上の課題
    デザインは手続き上の困難を伴います。解析においてイベントの数を追跡するためには臨床試験データの迅速な処理が必要となります。
  • 長期間の評価項目から生ずる困難
    このデザインは、PFS に関する情報を比較的迅速に入手できることが必要です。そのため、評価項目が長期間の場合はより困難になります。
  • 情報損失のリスク
    2 群を結合することで情報を失うリスクが生じます

患者の参画

患者さんの情報をアダプティブデザインへ適用することにより、患者集団のニーズおよび要求事項を決定し理解するのを手助けすることで、最も適切なデザインを特定する研究を支援することができます。患者さんは、データモニタリング委員会にも参画できます。

結論

新しい試験デザインは、次の事項を可能にします:

  • 柔軟なデザイン戦略
  • より効果的な資源の利用
  • 開発プロセスの短縮

薬事規制に関する観点より、臨床試験におけるアダプティブデザインの正当性および完全性を維持することが重要です:

  • 伝統的な試験デザインと同じ疑問に対処する
  • 手順によるバイアスの制御
  • 統計学的に問題となる誤りを制御できる可能性
  • 結果の解釈

添付文書

A2-4.08-v1.2

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