医薬品安全性監視:医薬品の安全性の監視

Last update: 16 10月 2020

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はじめに

医薬品安全性監視 (PV) (ファーマコビジランス) とは、医薬品の使用について、否定的な結果 (有害事象) が生じていないかモニタリングすることです。より公式には、「医薬品の有害事象やその他の医薬品に関連する問題の検出、評価、理解および予防に関する科学と実務」と定義されています。世界保健機関 (WHO) は 1961 年のサリドマイド事件の判明をきっかけに、国際医薬品モニタリング制度 (Programme for International Drug Monitoring) を発足させました。これを契機に国際的な医薬品安全性監視が開始されました。

医薬品の販売承認を保有する企業である販売承認保有者 (MAH) には、継続的にデータを収集し、医薬品安全性監視を確実に行う法的義務があります。データについては、規定されたスケジュール内に規制当局に送信する必要があり、ベネフィット リスク バランスに関する新たな問題が生じた場合は直ちに報告する必要があります。必要に応じて、規制当局は正式な試験を含む追加調査を要請する場合があります。製品情報更新やその他の安全対策実施プロセスに関する規制上の手続きが存在します。

医薬品安全性監視の基本:目的と適用範囲

医薬品安全性監視の活動の目的は以下のとおりです。

  • 医薬品の使用およびすべての医療行為に関して患者ケアと安全性を向上させること。
  • 医薬品の使用に関して公衆衛生と安全性を向上させること。
  • 医薬品の有益性、危害、効果、リスクの評価に貢献すること。および
  • 医薬品安全性監視の理解、教育、臨床研修を促進すること。

医薬品安全性監視の活動の適用範囲は以下のとおりです。

  • 低分子医薬品 (通常は化学合成由来)
  • ハーブ サプリメントおよび栄養補助食品
  • 伝統医薬および補完療法
  • 血液製剤
  • 生物学的医薬品 (抗原やワクチンなどの生物源または生細胞由来の医薬品)
  • 医療機器
  • 規格外医薬品および偽造医薬品

ベネフィット リスク バランス

医薬品は、意図しない有害な影響を身体に及ぼすことがあります。副作用や有害事象と呼ばれるこれらの影響は、医薬品のリスクを示しています (下記の「有害事象」のセクションを参照)。新薬について販売承認を取得する頃には、医薬品の試験が実施され、データにより医薬品の恩恵 (ベネフィット) がリスクを上回るという結論が引き出されています (市販前ステータス)。しかし、医薬品の販売承認を取得すると (市販後ステータス)、医薬品は通常の医療現場で多くの患者に使用されます。これらの患者は、試験対象集団 (定義された基準により選択) とは年齢や他の疾患の存在などが異なります。さらに、臨床試験の限られた期間とは異なり長期間の使用中にのみ、まれな副作用が明らかになる可能性もあります。したがって、医薬品の新たなリスクや変化のあるリスクを可能な限り速やかに特定し、リスクを最小化し安全で効果的な使用を促進するための対策を取ることが重要です。

有害事象

有害事象 (AE) とは、医薬品による治療を受けた患者に生じる否定的または有害な医療上のできごとであり、AE が医薬品に関連があると考えられるかどうかを問いません。AE は必ずしも治療との因果関係があるとは限りません。以下に AE の例を挙げます。

  • 他の医薬品との相互作用の疑い (薬剤−薬剤間相互作用)。
  • 薬物乱用。
  • 投薬過誤 (過量の医薬品の服用など)。
  • 製品の技術的苦情。
  • 過量投与により生じた事象。
  • 医薬品の期待効果の欠如。
  • 製品使用後の疾患の悪化。および
  • 妊娠中の製品使用後の先天性欠損その他の事象。

重篤な有害事象 (SAE) には以下が含まれます。

  • 死亡。
  • ただちに生命を脅かす事象。
  • 入院または入院期間の延長。
  • 重大または永続的な障害。
  • 先天性欠損または先天異常。または
  • 患者を危機にさらすおそれがあったり、上記に挙げた結果に至らないようにする処置や治療が必要となったりする重要な医学的事象。

定期的安全性最新報告 (PSUR)

定期的安全性最新報告 (PSUR) は、医薬品のベネフィット リスク バランスの評価提供を目的とした医薬品安全性監視の文書です。PSUR は、承認後段階の定義された時点で MAH により提出される必要があります。PSUR では、医薬品に関するグローバルで累積的な情報として、新しい情報または新たに生じる情報を考慮に入れ、医薬品のベネフィット リスク バランスの包括的かつ簡潔で、批判的な分析を提示します。欧州医薬品庁 (EMA) は、EU 内の医薬品に含まれる有効成分の欧州参照日 (EURD) とPSUR の提出頻度の一覧を保持します。EMA は、同じ有効成分または有効成分の組み合わせが含まれる医薬品については、関連する PSUR の単一の評価を実施します。

開発時定期的安全性最新報告 (DSUR)

開発時定期的安全性最新報告 (DSUR) は、開発中の医薬品 (追加試験を実施中の上市済みの医薬品を含む) に関する定期的報告の共通標準とすることを目的とした文書です。DSUR の主な目的は、報告期間中に収集された適切な試験情報の包括的な年次審査と評価を提示し、治験依頼者が治験薬の安全性プロファイルの変化を適切に監視および評価していることを、規制当局が確認できるようにすることです。これらの分析結果や、安全性の懸念に対処するために提案される処置または実施された処置について、規制当局および他の関係者 (倫理委員会など) に連絡することも重要です。

市販後有効性試験 (PAES)

医薬品安全性監視の主な焦点が医薬品の安全性である一方、新しい情報を入手したり、新しい医薬品安全性監視上の徴候を検出したりした場合には、製品評価全体 (特にベネフィット リスク バランス) に影響が生じる可能性があります。新しい医薬品安全性監視法令の前文によると、市販後有効性試験 (PAES) および市販後安全性試験 (PASS) では、日常診療でのヒト用医薬品の有効性または安全性を評価できるようにデータの収集を目的にすることができます。

初回の販売承認後、医薬品の販売開始後にのみ解決が可能な医薬品の有効性の側面に関する懸念が特定された場合に、PAES が必要となる場合があります。疾患または臨床研究法の解明により、以前の有効性評価を大幅に修正すべき可能性が示される場合にも、PAES が必要となる場合があります。PAES は、初期のエビデンスを補完するため、または試験から得た新しいデータに基づき、販売承認を付与されたとおり維持するか、変更するか、取り下げる必要があるかどうかを検証するため、所轄官庁および MAH に情報を提供することを目的としています。

市販後安全性試験 (PASS)

市販後安全性試験 (PASS) は、安全上の危害の特定、特徴付け、または定量化、医薬品の安全性プロファイルの確認、またはリスク管理措置の有効性の測定を目的とした、承認済みの医薬品に関連する試験と定義されます。PASS については、MAH が自発的に、または所轄官庁により課せられた義務に基づき、開始、管理、または資金調達します。

公聴会

公聴会は、一般市民が招かれて意見を述べることができるフォーラムです。公聴会は、特定の医薬品の安全性、医薬品の物質、治療別分類などに関連した問題について、これらの製品の治療効果を考慮しながら、事前に定義された質問によって導かれます。

医薬品安全性監視リスク評価委員会 (PRAC) (ヒト用医薬品の安全性の問題を評価および監視する責任を持つ EMA の委員会) は、公聴会によって、一般市民の意見を聞き、意見形成の考慮に入れる機会を享受できます。これは、より広範な公衆衛生の状況で規制措置やリスク管理活動を行うための選択肢を検討する必要がある場合に特に当てはまります。公聴会により議論にさまざまな要素が付加されます。

公聴会の主な目的は、特に治療効果および利用可能な治療代替法に関連した、医薬品、医薬成分、該当する医薬品の分類に伴うリスクの許容可能性について意見を聞くことです。公聴会は、リスク管理とリスク最小化活動の実行可能性と受け入れ可能性について提案と推奨を求めることも目的としています。

公聴会は、一般市民すべてに対して開かれています。PRAC は、該当する医薬品に関連した、患者代表、消費者、医療従事者、特定の専門の研究者を積極的に招くことがあります。MAH も、自体の意見を公聴会の参加者に提示する機会を持ちます。

追加資料

添付文書

A2-5.20-v1.2

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