Last update: 11 7月 2023
医薬品研究および開発プロセス全体での患者の関与のための包括的原則
欧州患者アカデミー (EUPATI) は、患者団体、大学、非営利団体、製薬会社のパートナーの33 の団体からなる全欧州革新的医薬品イニシアティブ (IMI) プロジェクトです。EUPATI 全体で、「患者」という用語は、あらゆる疾患にあるすべての年齢層のグループを意味します。EUPATI は、疾患固有の問題または治療ではなく、一般的に医薬品の開発のプロセスに焦点を当てています。適応症に関する情報や、年齢固有のまたは特定の医学的介入については、医療従事者や患者団体が扱うべき分野であり、EUPATI の活動範囲には含まれません。詳細については eupati.eu/ をご覧ください。
医薬品の開発と評価に関与している専門家の大部分は、民間部門および公的部門に所属する科学者です。特定の疾患を伴って生活することがどのようなものあるか、ケアがどのように行われ、医薬品が日々どのように使用されているかを理解するために、患者の知識と経験を引き出す必要性はますます高まっています。これらの情報は、新たな効果のある医薬品の発見、開発、そして評価を改善するのに役立ちます。
あらゆる疾患にあるすべての年齢層の患者の代表とその他の利害関係者との組織的なやりとりは必要であり、また医薬品の使用者の見解を検討でき、かつ検討すべき国内および欧州レベルでの情報交換と建設的な対話を可能にします。医療制度だけでなく、医療行為、法制度も異なる可能性がある点を考慮に入れることが重要です。
私たちは、医療専門家団体、受託研究機関、患者および消費者団体*、学界、科学および学術団体、規制当局および医療技術評価 (HTA) 機関および製薬業界などの、さまざまな利害関係者との緊密な協力と提携を勧告します。患者の関与により、患者とその他の利害関係者間の透明性、信頼、そして相互尊重が向上することは、これまでの経験が示しています。医薬品の発見、開発および評価への患者の貢献が、利用できるエビデンスと見解の質を高めることが知られています。[1]
さまざまな利害関係者との患者の関与に関する既存の実施基準は、研究開発 (R&D) の全範囲を網羅しているわけではありません。EUPATI のガイダンス文書は、医薬品の研究開発プロセス全体への患者の関与の統合をサポートすることを目的としています。
これらのガイダンス文書は、規範的なものではなく、ステップごとの詳細なアドバイスを提供することを意図したものでもありません。
EUPATI のガイダンス文書は、医薬品の研究開発 (R&D) プロセス全体への患者の関与の統合をサポートすることを目的としています。個別の状況、国内規制、またはそれぞれのやりとりの独自の必要性によりガイダンスから逸脱することも考えられます。本ガイダンスは、最良の専門的判断を用いて個々の要件に適応させる必要があります。
患者の関与を扱う個別のガイダンス文書が 4 種類あります。
- 製薬業界主導型医薬品 R&D
- 倫理委員会
- 規制当局
- 医療技術評価 (HTA) 。
各ガイダンスで患者の関与の機会が現在ある分野を示しています。このガイダンスは、進展を反映するように定期的に見直し、改定する必要があります。
本ガイダンスでは、治験の倫理審査への患者の関与について扱います。
次の価値はガイダンスで認識されており、提案されている業務慣例の採用に向けて取り組まれています (8 項)。価値とは以下のとおりです。
関連性 | 患者のもつ知識、見解、経験はユニークで、倫理面の検討に貢献します。 |
公平性 | 患者は利害関係者と対等に治験の倫理審査に貢献する権利を持ち、効果的に関与できる知識や経験を持っています。 |
公平性 | 臨床試験の倫理審査への患者の関与は、特定の健康問題をもつ患者の多様なニーズを業界の要求事項を補いつつ理解するよう努めることで、公平性に貢献します。 |
能力構築 | 患者の関与のプロセスは、倫理審査への関与の障壁に対処し、患者と倫理委員会が協力する能力を構築します。 |
以降に策定するガイダンスはすべて、4 つの EUPATI ガイダンス文書で述べたやりとりを扱う既存の国内規制と整合する必要があります。
免責事項
EUPATI のガイダンスは、医薬品の研究開発 (R&D) ライフサイクルを通して、医薬品の R&D への患者の関与の統合をサポートすることを目的としています。
これらのガイダンス文書は、規範的なものではなく、ステップごとの詳細なアドバイスを提供することを意図したものでもありません。このガイダンスは、特定の状況、国内の法律、または各相互作用の必要性により使用するべきです。本ガイダンスは、最良の専門的判断を用いて個々の要件に適応させる必要があります。
本ガイダンスが法的問題に関する助言を提示している箇所については、明確な法的解釈として提示されたのでも、正式な法的アドバイスの代わりとなるものでもありません。正式な助言が必要であれば、関与する利害関係者がそれぞれ、法律に関する部署があれば相談するか、管轄の情報源から法的な助言を求める必要があります。
EUPATI は本ガイダンスの利用により生じた、いかなる内容のいかなる結果についても責任は負いかねます。
EUPATI プロジェクトは助成金契約番号 115334 のもと、革新的医薬品イニシアティブ合同事業からの支援を受けました。これは欧州連合の第 7 次枠組みプロジェクト (FP7/2007-2013) と EFPIA 企業の出資金からなる財源援助です。
倫理審査における患者の関与の紹介
新薬から患者が受けるベネフィットを確実に最適化し、商業的にも成功を収めるため、製薬会社は開発する化合物の選定とそれぞれの疾患を伴う患者のニーズ周辺での関連する研究アウトカムの定義を行うことにフォーカスしています。「患者中心主義」は、急速に進化し、製薬会社のビジネスモデルのますます重要な要素となっています。これには、新しい戦略、新しい組織構造および製薬業界のカルチャーの変化を必要とします。また、治療の価値およびどの健康に関するアウトカムが患者に関係するかについて助言を提供する能力を備えた患者エキスパートとの連携を必要とします。しかし、患者中心主義の概念は、医薬品開発プロセスのその他の利害関係者、特に治験における患者の保護に関する擁護者である、研究倫理委員会にも関連しています。
優れた治験計画は、倫理面および科学面の双方で健全です。計画の決定には、新薬が別の医薬品またはプラセボと比較されるかどうか、試験参加者の選択方法、および試験と評価方法の種類 (および頻度) が含まれます。潜在的に有害な副作用のリスクは、新薬への早期アクセス、診断と監督の強化、同じ疾患を持つ他の患者のため新しい治療法の開発に貢献する機会など、参加する患者にとっての潜在的なベネフィットとのバランスがとられる必要があります。これらのリスクとベネフィットについての患者の判断は、研究者にとってのリスクとベネフィットとは異なる可能性があります。たとえば、彼らは、問題の疾患の重症度によって、潜在的な副作用に関するより高いリスクを取る用意があるかもしれません。今日の慣行では、製薬会社またはバイオテクノロジー企業が行う治験においても、学術機関が行う治験においても、これらの決定における患者の関与は標準的なものではありません。
治験は、非常に厳格な法律の枠組みにしたがいます。治験が開始可能になる前に、すべての法的条件が充足され、試験が科学的に健全であり、治験薬の品質と安全性が臨床前試験、可能な場合には以前の臨床上のエビデンスにもとづいて証明されており、期待されるベネフィットとリスクの間に好ましいバランスがあることを確保すべき所轄官庁から承認を得る必要があります。国内の所轄官庁による審査と並行して、単一または複数の多くの専門分野の専門家による (研究) 倫理委員会が、試験参加者を保護するために治験実施計画書および関連文書を審査します。倫理委員会は、患者向けの情報が理解しやすく有用であるよう確保します。倫理委員会はベネフィットとリスクの間のバランスを評価し、このバランスが許容できること、そして治験が問題の疾患を伴う患者と科学的に関連することを確保します。
ヨーロッパのほとんどの国の患者、ケア提供者または患者の代表は、治験の倫理面および科学面での審査にわずかにしか関与していないか、またはまったく関与していません。ヨーロッパのほとんどの国の国内法制および EU 治験規制 (規制 (EU) 536/2014) では、治験の倫理的条件の定義および倫理委員会によって行われる審査への患者の関与は明確に定義されていません。規制は以下のように規定しています。「申請の評価に関わる適切な機関 (つまり、倫理委員会) を決定する場合、加盟国は非専門家、特に患者または患者組織の関与を確保すべきである。」[2]
製薬およびバイオテクノロジー業界において R&D への患者の関与がますます許容される概念となる一方で、倫理委員会への患者の関与は大いに議論されています。倫理委員会は、ヒトを対象に実施される研究プロジェクトの倫理的な許容可能性に関する助言を提供する、エキスパートによる諮問グループです。倫理委員会は、研究の参加者を保護する公の義務があります。これらの義務を果たすため、倫理委員会のメンバーは独立し、中立していて、客観的で科学的、倫理的および方法論に関するトピックについて能力を備えている必要があります。非専門家のメンバーを含めているのは、この中立性をサポートし、助言の範囲を拡大するためです。倫理委員会に患者のメンバーを加えることは、思考の転換を意味します。研究から究極的に恩恵を受ける人々を代表する患者が倫理委員会に関係者として出席し、治験への参加のベネフィットを過大評価するか、あるいはリスクを過小評価するかもしれません。しかし、R&D における「患者中心主義」の概念の根底にある考慮がここでも適用される可能性が高いのです。関係者がエキスパートとしての自身の意見を提供できれば、アウトカムも改善可能です。倫理審査における倫理委員会と患者の協力のための条件を説明する、一般に許容されたガイダンスが必要とされています。
適用範囲
本ガイダンスは、革新的治療のための欧州患者アカデミー (EUPATI) により、臨床研究プロジェクトの倫理審査に関与する医薬品開発におけるあらゆる利害関係者のために作成されました。特に、研究倫理委員会の委員および患者とケア提供者、または患者の意見を提供する患者代表に焦点を当てています。
本ガイダンスでは、治験の倫理審査への患者の関与について扱います。倫理的側面は、治験のあらゆる段階 (研究の論点の定義と治験実施計画書の条件から、同意書の準備、倫理委員会による倫理審査、および治験結果に関する一般への情報提供に至るまで) で考慮される必要があります。図 1 および図 2 をご参照ください。本ガイダンスでは、研究倫理委員会への患者の関与に焦点を当てますが、これらすべての段階への患者の関与について扱います。
本ガイダンスは、複数の利害関係者が参加した円卓会議での討議内容と結論、および EUPATI が主催した患者の関与に関するオンラインセミナー、各国の倫理委員会の貢献、EUPATI コンソーシアム内での協議内容、および包括的な組織外での協議プロセスにもとづきます。
「患者」を定義する
「患者」という用語は、さまざま共同プロセスの中で患者、患者の擁護者および患者団体から要求される異なる種類のインプットと経験を反映しない不正確な用語として一般的によく使用されます。
本文書およびその他の EUPATI のガイダンス文書で提示されている患者の相互作用の潜在的な役割について用語を明確化するため、私たちは以下の定義で「患者」という用語を使用します。
- 「個々の患者」とは、疾患と共に暮らしているという個人的経験を伴う人を意味します。「個々の患者」は、 R&D または規制プロセスに関する技術的知識を持っているかもしれませんし、持っていないかもしれませんが、彼らの主な役割は、自身の主観的な疾患と治療の経験で貢献することです。
- 「介護者」とは、家族または仕事として、あるいは有償またはボランティアのヘルパーのように、個々の患者をサポートする人々を意味します。
- 「患者の権利擁護者」とは、特定の疾患とともに生きる患者のより大きな集団をサポートする洞察と経験を持つ人々を意味します。「患者の権利擁護者」は、組織と提携している、または提携していない可能性があります。
- 「患者団体の代表者」とは、特定の問題や疾患領域について患者団体の総括的な意見を述べることを委任された人々を意味します。
- 「患者専門家」は、疾患固有の専門知識に加えて、トレーニングや経験を経て R&D や規制関連業務の技術的知識があります。たとえば EUPATI フェロー は医薬品 R&D 全般に関して EUPATI のトレーニングを受講した専門家です。
意見が主観的で非難の対象になるという理由で、個々の患者を利害関係者との共同作業に関与させるのを留保するかもしれません。しかし、EUPATI は、規制当局と連携して個人の関与を排除することなく、公平性の価値観を浸透させます。患者タイプと活動内容の点で最適な患者の代表を選ぶやりとりを開始するのは、機関の裁量に任せるべきです (7 項参照)。個々の患者が関与する場合は、もし存在すれば、関連患者機関に通知したり、支援や助言の相談をしたりすることを提案します。
関与前に、いかなる共同プロセスに関しても、関与する人の意見や義務の種類は合意を得ておく必要があります。
倫理審査における患者の関与の現状
ベスト プラクティス事例は、試験デザインおよび治験実施計画書準備といった早期段階からの治験に関する倫理的検討への患者の関与は、研究プロジェクトにおける倫理問題に関する意識を強化するというベネフィットをもたらすことを示しています。この段階で関与することにより、患者に最大限焦点を合わせることができ、患者に関連するアウトカムが測定されます。このやりとりに関するガイダンスは、EUPATI 「Guidance on patient involvement in industry-led medicines R&D」によって提供されています[3]。同様に、学術機関が主導する治験において、患者エキスパートは意味ある助言を与えることができます。
倫理委員会による治験の倫理審査では、治験実施計画書の詳細が決定されています。この審査の焦点は、特定のベネフィットとリスクのバランスの許容可能性、患者保護の要素、実施施設の適格性およびインフォームド コンセプトのプロセス中の患者への情報であり、倫理委員会の委員がそれぞれの専門知識を取り入れます。患者固有の専門知識を追加することで、委員会の専門知識を適切に拡大することができます。
1 人以上の非専門家が倫理委員会に参加することが長い間の慣行となり、これには疑いなく価値がある一方で、患者の関与の種類と範囲は欧州加盟国間で、国内でさえ、大きく異なります。一部の国では、患者の代表参加が法律によって要求され、条件が明確に定義されています。他の国々では、それぞれの倫理委員会が委員会の構成に関する規程における柔軟性の範囲内で患者の関与を開始したところであったり、法律によって倫理委員会が非専門家または患者代表の関与の有無を決定するようになっています。次の理由により、さまざまな慣行が存在しています。
- 患者の関与によるベネフィットは認識されているが、その役割や最も適切な患者のプロフィールに関する合意がない(患者エキスパート、患者の権利擁護者、患者団体の代表または個人としての患者)。
- 倫理審査に貢献する意思のある患者を見つけることは、倫理委員会にとっての課題であり、この状況は欧州全体に当てはまる。マッチングする確立されたプロセスがない。
- 特定の疾患を伴う患者の関与は、ロジスティックス上の課題となりえる。一方ですべての種類の疾患に関する助言を行う患者の関与には、自身の疾患を超えた知識のレベルが求められる。
- 特定の疾患を持つ患者が、同じ疾患を抱える他の患者をどこまで代弁できるか、どこまで代弁する意思があるかについて、そして患者の個人的な利害からバイアスが生じる可能性の有無については、意見の相違がある。患者団体からの代表の独立性は、患者の個人的な利害および製薬業界からの金銭的支援が利益相反につながりうるという理由で疑問視されている。
- 適切な患者エキスパートに関する欧州全体の受容力は現在のところ不足している。
これまで限られた数の患者団体が、倫理審査、特に倫理委員会に関連する貢献を行う役割のために、個々の会員を特定し教育するよう取り組むことを決定してきました。
2018 年時点では、治験の承認と実施は、欧州治験規制 536/2014 (the European Clinical Trial Regulation 536/2014) によって定められています。倫理審査プロセスへの患者の関与は本規制には明記されていません。ただし、本規制は、非専門家、特に患者または患者団体が治験の承認申請の評価に関与すべきであると述べています。評価プロセスおよび評価組織の構成 (国家管轄当局および倫理委員会) は国内法制の対象となるため、結果として倫理審査プロセスへの患者の関与は、国ごとに異なり続けるでしょう。
倫理審査における患者の関与のタイミングと本質
患者は治験の倫理審査に異なる時点で関与することができます (4 項)。
- 治験概念フェーズ (商業界または学術機関の治験依頼者によって扱われる)
- 治験デザイン フェーズ (商業界または学術機関の治験依頼者によって扱われる)
- 倫理審査フェーズ (倫理委員会によって扱われる)
- 治験終了後 (商業界または学術機関の治験依頼者によって扱われる)
治験概念フェーズでは、患者エキスパートは次のような倫理的側面について助言できます。
- 前臨床データおよび/または背景となるエビデンスの評価
- 研究の論点、たとえば、具体的な適応症、患者集団など
- 患者との関連性を確実なものにするために、治験の目的を定義
- 被験者の選択および除外基準
- 許容可能な/関連する評価項目
- 測定および評価の適切性、たとえば、生活の質に関する質問票、患者の報告によるアウトカム
- 比較対象 (プラセボまたは実薬による比較対象)、および参加者にとってのそれらの許容性
- 許容可能なリスクのレベル:患者が許容できるリスクのレベルに関して、患者がそれぞれ異なる意見をもっている可能性がある。
私たちは患者エキスパートが治験概念フェーズへ参加すべきであると推奨しました (治験依頼者が企業であるか、学術機関であるかにかからわらず)。治験の科学的価値とその実現可能性を最適化するためです。
治験計画フェーズでは、患者エキスパートは、次のように定義される必要がある治験の具体的内容について助言できます。
- 許容可能な時間枠の中で募集できる適切な数の参加者
- リスクを上回る治験参加のベネフィット
- 許容可能な参加者の負担
- 参加者に提供される治療が十分であること
- 治験薬の管理が容易であり、できるだけ信頼性が高いこと
- 測定と評価が実用的で、参加者にとって許容可能かつ信頼性が高いこと
- 早期に治験を中止した場合でも、患者が治験結果を知らされること
- 治験が実施されるコミュニティも、結果によってベネフィットがあること
患者は数多くの側面で貴重な意見を提供できますが、このフェーズで患者が関与する典型的な領域は、患者情報シートおよびインフォームド コンセント フォームの準備を含むインフォームド コンセント プロセスの策定です。これらの文書に関する患者からの意見によって、読みやすさ、ユーザーにとっての利便性および完全性を向上することができます。
私たちは、治験依頼者が企業であるか、学術機関であるかにかからわらず、患者エキスパートが治験計画フェーズへ参加すべきであると推奨します。それは、参加者の治験条件への適合性および各患者コミュニティのため、治験アウトカムの妥当性をサポートするためです。
1 つ以上の倫理委員会によって展開される倫理審査フェーズでは、患者エキスパートまたは患者の権利擁護者が上述の要素に重要な意見を提供できます。さらに、患者エキスパートは次のような治験の国内での条件について助言できます。
- ベネフィットとリスクのバランスの評価
- 選択および除外基準の公平性
- 患者への賠償責任補償の適切性 (保険)
- データ保護手段
- 潜在的な利害の衝突
- 同意文書の読みやすさと許容可能性
- 誘導の回避、たとえば患者への支払いまたは移動交通費が適切なことの確認
- 患者団体が患者情報および募集プロセスに貢献できる方法
私たちは、問題となる疾患とともに生きることについて知識を持つ、患者エキスパート、患者団体の代表または患者の権利擁護者が、治験参加者への最適な保護をサポートするために、倫理委員会によって行われる治験の審査に関与すべきであると推奨します。
治験依頼者は、ときどき治験終了後に治験参加者とのコミュニケーションにおいて患者を関与させますが、過去においてこれは非常に限定的でした。しかし、新しい治験規制では、透明性を確保し、患者コミュニティの治験への貢献を認識するため、すべての治験結果が一般的な要約として伝達される必要があります。一般的な要約への患者の意見は、それが患者にとって適切で読みやすいものであることを確保するために不可欠です。
私たちは、商業界や学術機関の治験依頼者が、問題となる疾患とともに生きることについて知識を持つ、患者エキスパート、患者団体の代表または患者の権利擁護者を一般的な要約の策定に関与させ、その要約がバイアスのない、患者にとって適切で読みやすいものにするよう推奨します。
倫理委員会における患者の実践的側面
国内法制は倫理委員会の構成、組織および責任について概要を示し、治験参加者の保護および研究の完全性における倫理委員会のさまざまな種類の役割を反映します。
倫理委員会での患者のさまざまな役割について検討することができます。
- 他のすべての委員と同じ権限と義務を持つ、倫理委員会の正規委員
- 審査会議の前に倫理委員会の委員に助言を行う外部査読者
倫理委員会の委員選定の具体的なプロセスは国によって異なり、国内法制、責任ある専門家団体または倫理委員会独自の標準運営手順によって定義されています。
患者の専門知識のレベル
倫理委員会は、患者である委員に期待する専門知識のレベルに関して、合理的な決定を行う必要があります。
- 問題の疾患を伴う「個人としての患者」、これらの患者の親またはケア提供者は、外部からの見解として、患者情報シートおよびインフォームド コンセント フォームへの貴重な意見を提供できます。また、治験が参加者の生活の質および負担に及ぼす影響という側面についてコメントできます。しかし、数ヶ月の経験の後には、「研究の素人」ではなくなるかもしれません。そして、それが彼らの意見の価値に影響するのではないかという議論があります。科学的および/または方法論的な複雑さを含むその他の倫理上のトピックの議論に、「研究の素人」の患者が参加するのは難しいでしょう。問題の疾患の罹患歴がない「研究の素人」の患者の貢献は、非専門家の貢献と同じ程度かもしれません。
- 「患者の権利擁護者」は、自身の経験から、疾患とともに生きることについて深い知識を持っており、この疾患の研究および医薬品開発に一定の理解力を持っているかもしれません。各倫理審査プロジェクトによって、彼らは経験を積み重ねます。しかし、彼らの助言の代表性は、自身とおそらくその他の数例のケースを超えた場合に関する深い知識の不足により限定されるかもしれません。他の疾患のための治験の倫理審査における彼らの貢献は、一般的な患者の視点に限定されるでしょう。
- 「患者団体の代表」は、問題の疾患を伴う患者および/または関連する患者団体に積極的に関わっており、多くの患者における疾患の経験について知っています。彼らは、このコミュニティのニーズ、要望および意見についてよく知っているため、相対的に代表性を持っています。患者団体はそのメンバーをサポートし、その利害についてのロビー活動をするために存在していることから、倫理委員会に参加する患者団体の代表がバイアスのない助言をする義務を認識するようにすることが重要です。他の疾患のための治験の倫理審査における彼らの貢献は、一般的な患者団体の視点に限定されるでしょう。
- 「患者エキスパート」 (EUPATI フェローなど) は、疾患とともに生きる個人的経験および/または患者団体のメンバーと協力する経験による複合的な知識を持っています。さらに、彼らは医薬品開発プロセスのあらゆる側面を包括的に理解しており、他の倫理委員会委員と同じレベルで倫理に関する議論のあらゆる側面に積極的に参加することができます。彼らは代表としての役割で倫理委員会に参加することはありませんが、患者団体での自身の活動によって他の症例についてもよく知っています。他の疾患のための治験の倫理審査における彼らの貢献も、R&D について知識を持っているために貴重です。
私たちは、問題となる疾患とともに生きることについて知識を持つ、患者エキスパート、患者の権利擁護者または患者団体の代表が、患者情報シートおよびインフォームド コンセント フォームの策定を超えて彼らの意見を届けるために、できれば正規委員として、研究倫理委員会の作業に関与すべきであると推奨します。
サポートを行う患者および関心を持つ倫理委員会を探す
倫理委員会は、参加の意思を持つ患者、特に期待されるレベルの専門知識を持つ患者を探す難しさを報告しています。あらゆる種類の疾患に対する治験のレビューへの「一般的な」患者代表の関与は、患者であるメンバーを探しやすくはするものの、上述のようなマイナス面もあります。特定の疾患のための患者メンバーを特定し、彼らを倫理委員会に出席させることは、ロジスティックス上の課題となりえます。しかし、患者は電話会議またはオンライン会議によって倫理委員会に参加することができます。代わりに、患者に倫理委員会の開催前に書面でのコメントを提供するよう依頼することはできますが、この方法では会議内での倫理に関する議論への患者の影響力が失われてしまいます。
倫理委員会が関心を持つ患者を特定し、関心を持つ患者の倫理委員会への参加を実現するにあたっては、数々の選択肢があります。
- 倫理委員会は、(傘下の) 患者団体と協力関係を樹立し、倫理審査に関する教育の機会を可能にすることができます。
- 広告
- 既存の連絡先の活用
- 患者の自発的な応募
- さまざまな疾患とさまざまな専門知識のレベルを備えた関心のある患者との協力を促進するため、学術機関および商業界の治験依頼者と共同で国内のマッチング プラットフォーム開発をサポート
私たちは、各倫理委員会が倫理審査プロセスへの参加の意思のある患者のデータベース構築を推奨するとともに、国内または地域レベルでの、共同データベースの開発に倫理委員会が参画することを奨励します。
私たちは患者団体に対し、治験の倫理審査に関心を持ち教育を受けたメンバーのデータベースを構築することを推奨します。患者団体は、このデータベースの存在を各国の倫理委員会に伝達すべきです。
倫理委員会への患者の関与のための条件
倫理委員会の作業への患者の関与のための条件は、円滑で効率のよい協力のために、関心のある患者または患者代表に伝達されるべきです。
書面による合意
倫理審査プロセスにおける患者の役割を明確に記載した書面による合意に、両当事者が署名すべきです。合意は、法規制上の条件、作業手順、一般規則および紛争解決手続き、やりとりの頻度、機密保持を含む相互義務、賠償責任保護 (保険)、リソースの要件とタイムライン、および費用とその他いかなるベネフィットの支払いと払い戻しのためのメカニズムについて記載すべきです。
倫理委員会と参加する患者の間の協力関係を明確にするため、協力関係に入る前に書面による合意に署名することを推奨します。
透明性
倫理委員会の全委員と同様に、倫理委員会の患者委員は、自身 (および/または患者団体) の職業上の利害と金銭的支援において透明性を確保すべきです。
私たちは、その他の団体への職業上の関与および金銭的利害、および個人的および職業上 (患者が患者団体の代表である場合) の資金源などの潜在的な利益相反を一覧する目的で、患者委員が他の倫理委員会委員と同じ利益相反の宣言に署名することを推奨します。
代表性
患者委員の助言の代表性は、倫理委員会および彼らが代表する患者コミュニティの双方にとって重要な側面です。限られた数の患者団体のみが、適応となる領域で治験の倫理審査に関連する情報を体系的に集め、倫理委員会において団体を代表するのに関心があり、かつ適した会員が誰かを判断してきました。
私たちは、患者団体が倫理委員会で団体を代表することに関心を持つメンバーを特定し、これらのメンバーがコミュニティの治療上のニーズ、生活の質において不足しているもの、および日々の生活状況に関する包括的な情報を得られるようにすることを推奨します。
私たちは患者団体に対し、そのメンバーが患者委員の守秘義務を遵守しながらも、倫理委員会で得た経験を交換するメカニズムを実施することを推奨します。
任命、導入およびトレーニング
患者委員の任命プロセスおよび導入は、各倫理委員会の標準規則にしたがうべきです。
倫理委員会の倫理審査への参加は、多くの患者および患者団体代表にとって新しい経験となります。彼らがその分野の専門家との議論に躊躇する可能性があり、それが貢献の欠如につながることがあります。患者代表が単に出席することが委員会の決定への同意を与えるとみなされないことが重要です。真の参加をサポートするため、倫理委員会へ助言を提供する経験を持つ患者の権限を体系的に増大させる必要があります。これには、患者の関与が自身の疾患領域関連への貢献に限定される場合でも、倫理委員会委員の業務への包括的な導入、継続的な職能開発への取り組みを含めるべきです。
患者委員が倫理審査への参加頻度にかかわらず、包括的な導入および適切な継続的トレーニングを受けることを推奨します。
報酬
患者は個人としてだけでなく団体の一員としても、自らの意思で活動に関与する状況が多いということを認識しておく必要があります。したがって、次のことに配慮が必要です。
- かかったすべての時間に経費を足して報酬として支給する。
- 提供されるいかなる報酬も、公正で関与の種類に見合ったものであるべきである。理想としては、費用は払い戻しよりも団体のパートナーに直接支払われるとよい。
- 活動に関与する患者の特定や支援 (ピアサポートグループ、トレーニングおよび準備) の際に患者団体が負担するコストの埋め合わせも検討する。
- 交通や宿泊など、参加の計画調整を援助する。
報酬には現物支給の間接的なベネフィット (患者団体の無料で提供するサービス) や、患者や患者団体に提供される現物支給の非財政的ベネフィット (講習会、ウェブサイトの設定) も含まれます。
すべての団体は報酬の取り決めについて透明性を保つ必要があります。
参照文献
- EMA の枠組みより抜粋。European Medicines Agency (2022).EMA/649909/2021 Adopted. https://www.ema.europa.eu/en/documents/other/engagement-framework-european-medicines-agency-and-patients-consumers-and-their-organisations_en.pdf. Last Accessed 12 February 2024.
- EU Regulation on clinical trials on medicinal products for human use No. 536/2014. (2014) https://ec.europa.eu/health/human-use/clinical-trials/regulation_en. Last Accessed 6 July, 2021.
- 業界主導型医薬品研究開発における患者の関与に関するガイダンス (2016). https://toolbox.eupati.eu/resources/%e6%a5%ad%e7%95%8c%e4%b8%bb%e5%b0%8e%e5%9e%8b%e5%8c%bb%e8%96%ac%e5%93%81%e7%a0%94%e7%a9%b6%e9%96%8b%e7%99%ba%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e6%82%a3%e8%80%85%e3%81%ae%e9%96%a2%e4%b8%8e%e3%81%ab/?lang=ja Last accessed 27 July, 2021
*消費者は医療の議論において利害関係者と認識されています。EUPATI の適用範囲では消費者よりむしろ患者に焦点を当て、教材やガイダンス文書にそれが反映されています。
添付文書