欧州における HTA 制度

Last update: 13 1月 2016

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はじめに

医療技術評価 (HTA) は、医療技術の使用に関連する医療、社会、経済、および倫理的問題についての情報を体系的で透明、公平かつロバストに総括する学際的なプロセスです。その目的は、患者さまを重視して優れた価値を求める安全で効果的な医療方針を伝えることにあります。方針の目標にかかわらず、HTA は常に研究および科学の手法にしっかりと根差したものである必要があります。

医薬品分野で HTA を検討する際は、医薬品がどのように承認されるかを知り、製品のライフサイクルと販売承認 (MA) に至るプロセスについての基本的な認識を持つことは有益です。また、国によっては、HTA が償還や保険補償の制度にどのように適合するか知ることも参考になります。製薬会社はクオリティが高くランダム化された治験を実施して、申請書類を関係規制当局に提出する必要があります。安全性、品質、有効性に基づき製品の販売が認められると、製品を市場に投入できます (販売できます)。患者さまが必要な治療に広くアクセスできるようにするため、多くの場合、製品を国の医療制度や保険の補償対象とする必要があります。これは、適切な国家償還薬剤リストまたは保険補償に製品が含まれる可能性があることを意味します。

その一方で、費用を負担する機関は限られた予算で革新的な治療へのアクセスを管理する必要があります。このような制約により、費用負担者は患者の転帰を本当に改善する新技術のため支出している保証を求めています。これが HTA が導入される背景にあります。HTA の基本的役割は、現在標準的な治療法と比較して高まった新技術の治療価値 (患者の健康アウトカムの観点から) を明らかにすることであるためです。

このプロセスで主な役割を果たす組織を把握することから始めるのは有益です。欧州には、薬剤および非薬剤の医療技術評価 (HTA) の責務を負うさまざまな機関があります。このような機関の体制、機能、権限、および取り組みは、機関が運営されている、異なる医療制度や政治体制に応じて違ってきます。

欧州で医薬品評価を行う HTA 機関の例には次が含まれます。

ドイツでは、HTA の評価部分は IQWIG (医療品質・効率性研究機構) により行われる一方、査定部分と意思決定は GBA により実施されることに注意してください。また、一部の欧州の国々では、HTA 機関が機器、外科手術手技、および (場合によっては) 公衆衛生介入などの非薬剤処置の評価も行うことに注意してください。これらには次が含まれます。

  • ノルウェー – NOKC (Norwegian Knowledge Centre、Nasjonalt kunnskapssenter for helsetjenesten) – https://www.fhi.no/en/
  • スウェーデン – SBU (Swedish Agency for Health Technology Assessment and Assessment of Social Services) – http://www.sbu.se/en/

HTA には 2 つの主要な構成要素があります。評価と査定です。

一部の国々では、HTA の評価機能と査定機能は別々の期間により実施される可能性があります。

  • ある機関は、評価機能 - エビデンスの統合やエビデンス提出の批判的なレビュー - に特化するかもしれません。
  • 他の異なる機関は、査定機能 - 現地の事情に関連するより幅広い要因を踏まえた評価の考察 - に特化するかもしれません。その後、これらの機関は助言や勧告を行います。

HTA:評価

薬剤に関する HTA プロセスは、通常、企業が関連情報書類を HTA 機関に提出することから始まります。薬剤以外の処理については、多くの場合、HTA 機関は公表された情報の体系的なレビューを行います。通常、書類には新技術の安全性と有効性に関する詳細なエビデンスと "増加した臨床的ベネフィット" - 言い換えれば、既存の標準的治療 (比較対象物) と新製品の臨床効果の比較 - が含まれます。

また、欧州の HTA では、新製品が健康システムにかかる予算(予算の影響評価)またはシステムにかかるコストと比較した医薬品の有効性(例:コスト効率性分析または経済的評価)への影響を推定する国もあります。欧州のすべてのHTAが同一の相対的コスト効率性分析に重点を置くわけではありませんが、すべての国が臨床ベネフィットに重点を置いています。

用途記録または「提出物」の最も一般的な要素を以下に示します。これらの要素には他の要素より重要なものもあることに注意してください。公正性、適法性および公衆衛生については、より重点が置かれるため、HTAの評価領域というより査定部分が含まれることがあります。

  • 対象患者集団:保障の対象となると考えられる特定の集団 (フルライセンス表示またはそのサブグループにより決定)
  • 疾患負荷:また「アンメット・ニーズ」または「治療必要性」として知られるものこれは、現在の治療が不適切な特定疾患に罹患した人数の測定となり得ます。ある疾患の新規診断数、または罹患した人々を代表する社会あるいは政府に対するコストが含まれることもあります。また、疾患負荷についてのより質的な局面や、患者が受けられる現在の治療法が考慮されることもあります。
  • 医薬品の説明:医薬品の説明、効果、投与経路(例:注射、錠剤)、どこで患者に投与するか(例:病院、コミュニティ病院、プライマリケア病院、自宅)、頻度、および治療における他のインターベンションおよび医薬品との適切使用
  • 臨床的有効性:医療において、臨床的有効性は良好な治療効果が示されたことを意味します。有効性が立証された場合、その介入治療は、比較対象となる他の利用可能な治療と少なくとも同等の有効性があると推定されます。
    有用性と有効性を対比して述べると、有効性はある治療が臨床試験や実験室での試験でどの程度有効かを評価するものです。一方、有用性はある治療が診療でどの程度効果があったのかを示します。
  • 相対的効力:これは、理想的な状況下において、ある介入を行うことが、他の 1 つまたは複数の代替手段の介入と比較してより有益な結果が見込めることの程度のことです。
  • 臨床効果:臨床効果とは、特定の治療が診療でどの程度うまくいったのかを示す評価です。臨床的有用性は、申請資料に含まれる研究、臨床経験、患者さんの選択から導き出された最良の知見によって決まります。
  • 相対的臨床効果:これは、医療行為が通常の状況下で実施されるときに、望んだ結果を達成するためにある介入を行うことが、他の 1 つまたは複数の介入の代替手段と比較してより有益な結果が見込めることの程度として定義することができます。
  • 経済的評価および費用対効果:薬剤経済学の観点では、費用対効果は単独の結果を通常、「自然」に起こることの中で (例えば、獲得生存年数、回避死亡数、心臓発作の回避数や検出症例数) で測定し、異なる介入治療の結果を考察することで検討されます。
    次に代替的介入治療を (自然に起こることの) 単位ごとに比較し、金銭的価値がどのようにもたらされるかを評価します。これにより、意思決定者が限られた医療資源をどのように割り当てるのか判断できるようになります。
    しかしながら、費用対効果は介入治療が利用可能となるかどうかを判断するための基準の 1 つにすぎません。公平性、ニーズ、職業人生への影響および患者の優先度等の他の問題も経済的評価に当然含まれています。
  • 予算の影響:国全体の予算ではなく特定の期間の特定の保険予算内のコスト疫学および治療パターンについての堅固なデータと、現在の治療の取り込みおよび代替を想定して計算します。
  • 革新的な特性:その医薬品の使用にアドバンテージがあるという推測に基づいて、さまざまな形態の薬物送達などにおける患者の便宜性や、療法の遵守を改善できる他の特性などの臨床的ベネフィットが得られ、これらが革新的な特性となりますが、この他に医薬品の用法の改善も革新的な特性と見なすことができます。
  • 治療代替の使用可能性:他にその疾患の治療に使用可能な方法の説明それは他の医薬品であることもあれば、そうでない場合もあります。
  • 公平性に関する考慮事項:新しい療法の採用が、医療制度における公平性の尺度に及ぼす可能性がある影響の評価たとえば、社会的または経済的に不利な立場にいる人々に、そのような療法がベネフィットをもたらすかどうかという点です。
  • 公衆衛生に及ぼす影響:新しい治療法が、広く公衆衛生に及ぼす影響に関する試験たとえば、HIV/AIDS の新しい治療法でコミュニティ内の HIV 感染率が下がるかどうかなどが該当します。

大半の HTA 団体には、このプロセスを一貫し、公平な比較を行うためにガイドラインを作成しています。しかし、ガイドラインは国によってことなります。大半の HTA 団体のウェブサイトは閲覧可能なことが多く、新規医薬品に関する決定方法を説明に役立ちます。

疾患は、HTA 団体が直接精査するか、学術アフィリエートを使用します。利益相反を少なくするため、臨床および経済的エビデンスの独立したレビューを行う HTA 団体もあります。

HTA:考査

新しい健康技術の補償額に関する意思決定については、議論の余地があります。最も現実的なアプローチは、考査からエビデンス評価および意思決定を切り離すことです。通常、考査を行う団体は、エビデンス評価の結果に関する推奨と、現地の衛生政策、価値、患者の証言を基本とします。

HTA のプロセスにより通常、保険基本システムの保障対象に新規技術を収載するかどうか(リストには公的健康保険がカバーする医薬品が含まれる)または、税金ベースの国の保健サービスでの使用を推奨するかが決定されます。これは、少数のより重度の疾患患者人口などといった限られた条件下での医薬品使用の収載/推奨の場合もあります。

介入が、心臓発作率を減少させるか、重大な副作用があるか、エビデンスの堅固性の判断に大きなコストがかかるかの判断エビデンスには常に不明瞭さがあります。健全な科学的判断であり、一貫性があり、透明性のあるアプローチによる正当な決定は、あらゆる HTA 団体にとって最善の利益であることは明らかです。HTA の学際的な性質を踏まえると、疫学、社会学、経済学、倫理学、法学による最良のアプローチがさまざまな分析を支えるために必要となります。

しかし、意思決定には、社会および患者における価値を認識する必要があります。心臓発作率の低減が望ましいことでしょうか。その場合、どの程度のコストか。

考査に対するよいアプローチには、多くの見解を含むため、1 人の個人では十分には行えません。そのため、推奨に達する明確で透明なプロセスを使用する委員会が招集されます。このプロセスは、よく審議査定と呼ばれます。多くの HTA 団体は、適切にデザインされ、適切な比較を行った治験で得られた患者関連健康アウトカムにおける収穫の大きさ(およびエビデンスの強さ)をより強調します。

次に最も重要なのは、多くの場合 1 つ以上の経済学的考察です。ほぼすべての HTA 団体は、予算の影響を考えます(新規医薬品の使用にかかる総額が決められた期間の保健システムに追加されます)。以下が純支出となります。新規医薬品関連ベネフィットの結果として保険システムのどこかで生じる可能性のある貯蓄を控除するもの(例:重度の有害事象のため病院でほとんど使用しない)。委員会組織の中立性の保証ー委員会のメンバーは事前にあらゆる潜在的利益相反を事前に宣言するか、参加を辞退しなければなりません。

推奨がより広く株主が精査できる倫理的枠組みを採用している HTA 団体もあります。これにより、欠陥、バイアスまたは不正確な推奨により不当な影響を受ける可能性のある企業、臨床医または患者が訴えることができます。

稀に、HTA 団体がヘルスケアにおける優先順位決定の際の意思決定の困難な側面について市民の視点を求める場合があります。たとえば、UK NICE には市民の陪審員により、NICE 考査委員会に社会的価値判断を伝えることができる市民協議会を有しています。以下のリストは、市民協議会が助言したいくつかの問題の詳細です。

NICE の市民協議会により取り上げられたトピック
トピック
2002 臨床上のニーズ
2003 年齢および費用対効果
2004 ウルトラオーファンドラッグおよび費用対効果
2005 必須の公衆衛生対策
2006 レスキューの規則の使用
2007 患者の安全性および費用対効果
2008 ICER 閾値からの逸脱
2009 革新
2010 健康増進および経済的インセンティブ
2011 コストおよびベネフィットの割引
2012 社会的ケアの価値

HTA の結果が価格交渉に結びつくこともあります。価格交渉は、新しい治療法へのアクセスを可能にする政府の機構の 1 つです(つまり、「No」と言わない方法を見つけることです)。他には、償還機構で治療を受けることができる人々を制限することも含まれます。

推奨を超えて

新規医薬品が保健システム内で利用できるかどうかについての推奨は、その治療法の利用が必要な人々から厳しすぎて柔軟性がないと思われる可能性があります。これらの推奨は通常人口に焦点を当てるため、個人のバイアスによる例外は認められません。賛否の推奨ではなく、HTA が採用する他の機構がより役に立つかもしれません。

  • エビデンス開発に応じた保険適用 (CED):これは、現在は臨床的にも費用対効果についても支持するデータが不十分であるが、有望な新規医薬品を使用することができるように使用されます。これらの状況では、HTA はたとえばレジストリに登録され使用されている間に、不確実性を解決する正式なエビデンスの収集を提供しつつ、医薬品の使用を推奨することができます。または、規制当局から、今後いずれかの時点で追加のエビデンスをもたらす進行中の治験が必要となる場合もあります。
  • 価格決定:医療技術の価格は、提供側とその技術を使用する患者側に直接的な影響を与えることがあります。ある例では、特に、その医療技術がすべてではなく限られた場面で有益な場合、医療技術に対して考えられる価値に基づいた価格について支払い側が企業と交渉することがあります。このアプローチでは、提供側と特定の技術を必要とする患者が使用することを保証します。HTA 団体は、このプロセスに関わる場合もあれば、関わらない場合もあります。しかし、価値をベースとする価格には困難が伴います。医療技術の価値のすべての側面が適切に検討されると保証するのが困難だからです。たとえば、短期間の治験の結果では、投薬スケジュールの利便性や投与方法の侵襲性の低さといった患者にとって重要な製品特性が示されない場合があります。
  • 意思決定補助および臨床ガイドライン:HTA では、医薬品が特定の患者群または他の治療オプション後の特定のシーケンスにおいて最も価値があることを示すことができます。価値を最適化するため、支払い側は特定の臨床ガイドライン (処方用) または特定の意思決定補助 (患者および医師用) に関連した医薬品の補償を決定します。意思決定補助とは、患者および医師が個別の決定を伝えるためのエビデンスを使用するためのツールです。それにより、患者にとって異なるリスクとベネフィットを有する 2 種類の治療法を選択する助けとなります。これにより、患者は、何に最も価値を見出すかについて医師とより詳しく話し合うことができ、最良の治療選択肢を決定することができます。1
  • 保健システムの優先順位の設定および予算:どのサービスに支払いをするべきかを決定するために HTA 情報を使用する方法が発展してきました (例:どのサービスを皆保険補償に含めるかの決定)。つまり、どの選択肢が支払い側に価値を提供し、かつ支払い可能かということです。2

HTA ネットワーク

欧州の多くの HTA 組織も 2004 年に欧州連合 HTA 組織ネットワーク (EUnetHTA) を結成し、連携しています。EUnetHTA は、EU 委員会、欧州医薬品庁 (EMA) および患者または消費者を代表する利害関係者組織、支払い側 (公的健康保険) および医療提供者と緊密に活動しています。EUnetHTA は、欧州における HTA のネットワーク (HTA ネットワーク) の方法、基準、プロセスの構築を行っています。

HTA ネットワークは、多様性に富む欧州における HTA の方法、実践、結果、ならびに多くの労力の重複に応じた最良の HTA の実践および方法を推進していきます。また、欧州における HTA リソースの効率的な利用の促進も目指しています。EUnetHTA の重要な活動には、HTA ネットワークのために HTA 方法ガイドラインを作成および相対的効果の共同評価の推進が含まれます。これらの活動により、国レベルの作業量を軽減し、加盟国レベルの HTA 機関が特定の医療システムについて追加分析や意思決定を行いやすくなります。

追加資料

  1. Health Technology Assessment Network.Retrieved 6 January, 2016, from https://ec.europa.eu/health/technology_assessment/policy/network
  2. EUnetHTA:http://www.eunethta.eu/ (Retrieved 6 January, 2016)
  3. Opportunities for patients to be involved with EUnetHTA:http://www.eunethta.eu/ (Retrieved 6 January, 2016).
  4. Sorenson, C., Drummond, M., and Panos, K. (2008).Ensuring value for money in health care:The role of health technology assessment in the European UnionCopenhagen:World Health Organization.Retrieved 6 January, 2016, from http://www.euro.who.int/__data/assets/pdf_file/0011/98291/E91271.pdf
  5. Velasco Garrido, M., Kristensen, F.B., Nielsen, C.P, and Busse, R. (2008).Health technology assessment and health policy-making in Europe:Current status, challenges and potential.Copenhagen:World Health Organization.Retrieved 6 January, 2016, from http://www.euro.who.int/__data/assets/pdf_file/0003/90426/E91922.pdf
  6. Kleinjen, S., George, E., Goulden, S., et al. (2012).‘Relative effectiveness assessment of pharmaceuticals:similarities and differences in 29 jurisdictions’.Value Health, (15), 954-960.Retrieved 6 January, 2016, from http://www.valueinhealthjournal.com/article/S1098-3015(12)01609-9/pdf
  7. Rawlins, M. (2014).‘Evidence, values, and decision-making.’ International Journal of Technology Assessment in Health Care, (30), 233-238.

参照文献

  1. Ottawa Hospital Research Institute (2014).Patient Decision Aids:Implementation Toolkit.Retrieved 6 January, 2016, from http://decisionaid.ohri.ca/implement.html
  2. Bandolier (2007).Programme budgeting and marginal analysis.Retrieved 6 January, 2016, from http://www.bandolier.org.uk/booth/glossary/PBMA.html

A2-6.05-v1.1

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