臨床試験における補償

image_pdfSave as PDFimage_printPrint this page

はじめに

必ずしも標準的ではありませんが、多くの臨床試験では、参加者は参加に対して何らかの形で補償を受けます。金銭の形態を取る場合もあれば、旅費交通費の払い戻し、食料または食料引換券、他のサービスの場合もあります。以下の項目では、補償および償還 (払い戻し) とそれらに関連する問題の詳細について説明します。

臨床試験における償還とは

償還経費とは、臨床試験の参加に関連して発生する経費をいいます。償還はすべての適格な参加者または彼らの法定指定代理人に支払われます。これは臨床試験が開始する前に文書化されます。

たとえば、償還は以下に適用されることがあります。

  • 旅費交通費
  • 宿泊費
  • 収入損失
  • 食事

臨床試験における補償とは

臨床試験における補償は以下のような 2 つの異なるものを意味することがあります。

  • 臨床試験の参加に対して参加者が金銭またはその他の利益を受ける場合、または
  • 臨床試験で何らかの有害性を被ったことにより、参加者が支払いを受けた場合。

補償は、健康なボランティアで実施する第 I 相試験でより一般的であり、通常は、時間の犠牲と科学への貢献の認識として参加者に支払われます。

参加に対する補償

補償が参加者に支払われるかどうかは、治験依頼者および特定の試験により異なります。多くの医薬品開発受託機関 (CRO) は、収入を得る (限定的な) 機会を提供するとして臨床試験への参加を宣伝します。この慣行は米国で特に一般的です。米国では、米国国立衛生研究所が参加に対する標準料金表さえも作成しています。

欧州での補償に関する法制および慣行は広範に異なります。補償を完全に排除している国もありますが、最も一般的な慣行では、すべての補償は各倫理委員会によって審査および承認を受けることが義務付けられています。EU 臨床試験指令 (2001/20/EC)1 および規制 (536/2014)2によると、臨床試験への参加に直接関連する経費および収入の損失に対する補償を除き、報奨や財政的誘因を意思決定能力が不能な状態の参加者、未成年者 (または彼らの法定指定代理人)、妊婦に付与しないことと規定されています。別段の場合、この EU 法制には、「臨床試験に参加する被験者に対し、財政的性質の影響を含む不当な影響を与えてはならない」と述べられています。

被った有害性に対する補償 (保険)

EU 臨床試験指令は、「強制保険/補償」を導入しました。EU 規則では、通常の臨床的治療と比べて、臨床試験が必ずしも参加者に追加的なリスクをもたらすとは限らないことを認めています。したがって、追加的なリスクがない場合や、無視できるリスクの場合には、特定の損害補償 (保険または補償) は必要とされません。追加的なリスクがあり、治験依頼者が十分な保険補償を行う義務を課せられる臨床試験については、EU 規則によって、EU 加盟国は非営利で国内の補償機構を設置する義務を負います。また、EU は、参加者または治験実施施設との財務取引について完全に透明性を保つことをすべての治験依頼者および CRO に義務付けています。

参加者によって署名されたインフォームド コンセント フォーム (ICF) に、補償制度および負傷や危害を被った場合に参加者に提供される保険補償について具体的に明記する必要があります。ICF には、患者が治験スタッフまたは CRO を介して請求を手配する必要が必ずしも生じないように、保険会社への連絡方法も明記されている必要があります。

倫理的配慮

臨床試験における支払いは、長年にわたり倫理的な懸念事項になっています。懸念は特に、支払いにより臨床試験への参加について参加者が強制または誘導されるかという点に集中しています。この議論は進行中です。

社会的弱者の集団

脆弱な集団、特に小児や知的能力障害者または精神障害者における補償には、常に特別な懸念があります。これらの脆弱な集団の人々は、自身の意思決定を行わないか、行うことができないため、代わりに両親または法的後見人が決定しますが、リスクは必ずしも同様に分配できません。脆弱な集団の人々はリスクを抱えますが、両親または法的後見人が補償を得ます。このことが、脆弱な集団または彼らの法的後見人への経費以上の償還を EU が許可しない理由の 1 つです。患者活動家団体および患者団体は、これらの状況を仲裁し、この領域で不規則な慣例があった場合に規制当局に注意喚起することで重要な役割を果たす場合があります。

補償の額

臨床試験への参加の対価として参加者が受け取る補償の額を設定するために役立つ、さまざまなモデルがあります。次の表に、Pandya および Desai (2013)3 によって提示された、最も一般的なモデルについて説明します。

 

補償モデルのさまざまなタイプを示す表
モデル 指針原則 説明 メリット デメリット
市場モデル 需要と供給 – 恩恵がわずかまたはまったく得られない試験、目標の集団に達しずらい試験に対して補償が付与される。恩恵がある試験または目標の大規模な集団が得られている試験には補償が付与されない – 目標の募集人数を達成しやすい

– 被験者による財政的犠牲が少ない

– 完了率が高い

– 被験者を見つけることが困難な試験では高額な補償額につながることがある。

– 高い補償額により、参加への不当な誘導となる場合がある。

– 補償額が高いことにより、被験者が参加に伴うリスクを無視したり、試験に不適格となるような重要なデータを隠したりすることにつながる可能性がある。

– 治験責任医師が支払い額の大きさで被験者について競い合う状況を生む場合がある。

賃金支払いモデル 平等主義 – 同様の活動に関与した被験者が同様に支払われる

– 研究への参加にはスキルがほとんど不要か全く不要であるが、被験者の時間と労力を要し、不快感が伴う。したがって被験者には、スキルが不要であるが不可欠な仕事に相当する額で支払われる。

– 不当な誘導の問題が最小化される

– 試験間の競争が低減

– 被験者による財政的犠牲が減少

– 高所得グループと低所得グループ間の差別を防止

– 目標の募集人数の達成が困難になり得る

– 通常、低所得集団を引き寄せやすい

– 一部の人々に不適切な営利的な研究参加とみられる場合がある

償還モデル 平等主義 – 補償は被験者が試験に参加するために生じた費用のみを対象とする必要がある

– 仕事を休んで費やした時間は被験者の所得能力に応じて払い戻される場合がある

– 不当な誘導の問題が最小化される

– 被験者が情報を隠す可能性が低い

– 被験者が試験参加に関連するリスクを見過ごす可能性が低い

– 財政的犠牲が減少

– 目標の募集人数の達成が困難になる可能性

– 高所得グループを選択した場合に生じる試験費用が高いため低所得グループを優先する可能性

謝意モデル – 補償は試験完了時に感謝の表明として生じる – 試験募集に実際の影響を与えない – 被験者の保持に影響を与える場合がある。患者の参加中止を防ぐための誘導として機能する場合がある

– 他のモデルと一緒に使用する必要がある

Pandya, M. & Desai, C. (2013) の研究を改変した表。‘Compensation in clinical research:The debate continues’.Perspectives in Clinical Research, 4(1), 70-74.Retrieved 28 August, 2015, from http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3601710/

 参照文献

  1. European Parliament (2001).Directive 2001/20/EC on the approximation of the laws, regulations, and administrative provisions of the Member States relating to the implementation of good clinical practice in the conduct of clinical trials on medicinal products for human use.Retrieved 8 October, 2015, from http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?qid=1444311421932&uri=CELEX:32001L0020
  2. European Parliament (2014).Regulation (EU) No 536/2014 on clinical trials on medicinal products for human use, and repealing Directive 2001/20/EC.Retrieved 8 October, 2015, from http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?qid=1444311608518&uri=CELEX:32014R0536
  3. Pandya, M. & Desai, C. (2013).‘Compensation in clinical research:The debate continues’.Perspectives in Clinical Research, 4(1), 70-74.Retrieved 28 August, 2015, from http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3601710/

添付文書

A2-4.23-v1.2

トップに戻る

ツールボックスを検索する