欧州における医薬品規制

Last update: 22 9月 2016

image_pdfSave as PDFimage_printPrint this page

はじめに

医薬品規制は、欧州で高品質の医薬品のみが市販されることを保証するための基盤となっています。医薬品は目的の疾患や症状を治療するのに有効でなければならず、許容できない副作用がなく、高品質である必要があります。

欧州では欧州委員会が、規制および指令の形で高度な法令の提言を行います。この提言は欧州委員会、欧州評議会 (CoE) を通じた各加盟国 (MS)、CoE のワーキング グループ、および欧州議会の共同努力により、承認されて法令となります。個々の加盟国は CoE のワーキング グループを通じてこのプロセスに寄与します。

EU の医薬品関連法に規定された義務を果たすための最良の方法または最も適切な方法についての詳細な指示は、ガイドラインの形で提示されます。ガイドラインは販売承認の申請者や所有者、所轄官庁、またその他の関連団体などにアドバイスを提供するものです。ガイドラインは欧州医薬品庁 (EMA) または欧州委員会が作成します。EU ではまた、米国、日本、カナダ、スイス、および医薬品規制調和国際会議 (ICH) の参加諸国など、世界中の他の国々に加え世界保健機関 (WHO) とも協力しながら、統一されたガイドラインを作成しています。WHO と欧州委員会の高官による年次会合では、医薬品分野における一般的な問題が議論されています。こうした会合や共同作業はすべて、EU の法規に影響を与えます。

WHO と EMA は共同で規制機関も設立しています。EMA はまた、EU 以外の市場を対象とする医薬品の評価作業においても WHO を支援することがあります。

医薬品規制における欧州ネットワーク

業界に具体的かつ詳細なガイダンスを提供するため、各国の所轄官庁 (国家規制機関、NCA) が欧州医薬品庁と連携しています。EU の各加盟国の欧州医薬品規制首脳会議 (HMA) では、非公式のネットワークが確立されています。このネットワークは定期的に会合を開いており、EMA もそれに参加しています。

NCA は医薬品法案の作成にすべてのレベルで参加しています。正式には、EU 加盟国の保健省 (多くの場合 NCA の職員が代表する) が指令や規制の作成に参加することになります。EMA は EU における新規および改正版の科学的ガイドラインの作成を調整します。この作業は EMA のワーキング グループまたはワーキング パーティーによって行われます。通常、各加盟国の NCA は EMA の各ワーキング パーティーにメンバー 1 名を任命することができ、そのパーティーが科学的ガイドラインに関する作業の大半を行います。

規制ガイドラインはほとんどの場合、欧州委員会が Notice to Applicants (登録申請者への通知、NtA) ワーキング パーティによって作成します。ここでも NCA の代表者がプロセスに大きく関与します。

EU におけるガイドラインの作成

医薬品規制のための科学的ガイドラインの作成は、以下のような一定の手順に従って行われます。EMA のヒト用医薬品委員会 (CHMP) の全ワーキング パーティ (WP) が、通常この手順を使用します。

  1. 新規ガイドラインのコンセプト ペーパー
  2. CHMP による承諾
  3. 報告者の任命
  4. WP によるガイドライン草稿の作成
  5. 協議のための草稿の公表
  6. コメント
  7. WP によるガイドラインの最終決定
  8. CHMP でのガイドラインの採択
  9. ガイドラインの実施

WP のメンバーには各加盟国の NCA の代表者が任命されます。ワーキング パーティーがガイドラインの作成を開始する前に、この新しいガイドラインのための提言が CHMP によって承認されなければなりません。

WP のメンバー 1 名が、報告者として選任されます。この報告者がガイドラインの最初の草稿を準備します。その後、WP は EMA での会合の際にこの草稿について議論し、修正を行います。そしてこの草稿は EMA のウェブサイト上で発表され、業界、NCA、その他の利害関係者がその草稿にコメントを寄せられるようになります。

ガイドラインはその後 WP によって最終的に決定され、CHMP に送られて正式に採択されてから、EMA ウェブサイト上で発表されます (http://www.ema.europa.eu/ema/index.jsp?curl=pages/regulation/general/general_content_000043.jsp)。新しいガイドラインは通常、発表から 6 か月後に効力を生じます。

ガイドラインは ICH の内部で作成されることもあります。この作業は EU、米国、日本、スイス、カナダ、その他の地域および諸国の組織による共同で行われます。最終的な新規 ICH ガイドラインは関係者によって合意され、地域ベースで実施されます。EU においては、CHMP が正式に ICH ガイドラインを採択する必要があり、その後 EMA ウェブサイトに CHMP/ICH ガイドラインとして発表します。

CHMP ガイドラインの役割と実施

ガイドラインは規制、指令、国内法などとは異なります。ガイドラインは単にガイダンスを提供するものです。業界は新薬の医薬品販売承認申請のための文書を準備する際、こうしたガイドラインに従うことが推奨されます。ただし新薬の開発には長い年月がかかり、ガイドラインはそれが効力を生じた時点 (通常はガイドラインが CHMP によって採択されてから 6 か月後) 以降に行われた開発や研究にのみ適用されます。

特定の状況においては、新薬の開発にあたり、ガイドラインに従うことが不適切になる可能性もあります。製薬会社が医薬品の開発中にガイドラインから逸脱することを希望する場合は、その逸脱の信頼できる科学的正当性を明示する必要があります。これは文書を評価する当局によって検討され、その当局がその逸脱の正当性を判断しなければなりません。その正当化が許容可能であるとみなされれば、それに従ってガイドラインを更新するプロセスが開始されることもあります。

医薬品販売承認申請 (MAA) が加盟国別審査を経て国家管轄当局 (NCA) に対し直接行われた場合は、その申請がガイドラインに準拠しているか、なんらかの逸脱がある場合はそれが科学的に正当化されるかを、NCA の評価チームが判断します。ただし MAA が中央審査方式 (CP)、相互認証手続き (MRP)、または分散審査方式 (DCP) によって提出された場合は、手続きが複雑になることがあります。たとえば一次評価担当者が、すべてのガイドラインが十分に尊重されている、またはあらゆる逸脱が許容可能な方法で正当化されているとみなした場合でも、他の機関の評価担当者は異なる判断をする可能性があります。

個々の販売承認の手続きにおいては、こうした意見の不一致がそれぞれ異なる方法で対処されます。CP の場合、こうした不一致には CHMP が対処します。DCP および MRP では、HMA のヒトの相互認証方式および分散審査方式の調整グループ (CMDh) が、こうした問題についての議論を行います (http://www.hma.eu/cmdh.html)。CMDh が全会一致の判断に達することができれば、それで決着となります。全会一致の結論に達せない場合、CMDh はそのケースを CHMP に送り、最終的な判断を委ねる必要があります。

A2-5.03-V1.1

 

トップに戻る

ツールボックスを検索する