Last update: 29 9月 2015
はじめに
臨床試験をデザインする場合、試験期間中のデータの収集と記録を行う方法を計画することは重要です。
この記事では、以下を含む臨床試験の文書記録プロセスについて説明します。
- 臨床試験責任医師によるデータの記録先
- データの収集方法
- 臨床試験実施医療機関と臨床試験依頼者で所轄官庁により将来実施される査察を目的として、試験のために作成されたすべての文書がどのようにして取りまとめられるのか
臨床試験におけるデータ収集方法の種類
臨床試験のデータは以下の者により作成、収集されます。
- 臨床試験責任医師
- 試験スタッフ
- 患者により直接 (患者報告結果 (PRO))
これは、従来の方法 – 紙媒体 (症例報告書 (CRF)、患者日記、または質問)、電子的方法 – たとえば、電子 CRF (eCRF)、または携帯端末を使用して患者から直接データを収集する携帯電話やタブレット (ePRO) で実現できます。データを収集する他の方法は”直接データ収集” (DDC) と呼ばれます。DDC では、電子デバイスによりデータが直接生成され、データベースに入力されます。
紙の症例報告書 (CRF)
紙のCRFは、手書きデータのためにデザインされています。低コストで製造され、直接コピーやファックスを行うことができます。光学式文字認識 (OCR) などの新しい技術により、施設スタッフにより手書きされたデータをコンピューターで”読み取り”、自動的にデータベースに入力することが可能になりました。
メリット:
- 施設スタッフが CRF を必要な場所に運ぶことができる
- 施設スタッフが、コンピューターへのアクセスやパスワードについて心配する必要がない
- 試験期間中に変更が必要となった場合、修正が比較的容易である
デメリット:
- 保管する紙の量が多い
- 報告書のスペースが限られており、訂正に限界がある
- 電子記録では可能な誤ったデータ入力の自動通知がユーザーに対して行われない
- データがデータベースに入力される際に、誤入力が行われる可能性がある
電子症例報告書 (eCRF)
電子 CRF (eCRF) は普及しつつあります。しかし、比較すると構築はかなり複雑で、欧州と米国の厳しい規制を遵守する必要があります。コンピュータープログラムやソフトウェアを検証する必要があり、入力されたデータに加えたすべての修正の履歴を残さなければなりません。プログラムとデータにアクセスするのは権限がある者のみであることを保証する必要があります。データのバックアップは定期的に自動で行う必要があります。
試験においてeCRFを使用する場合、すべての治験実施医療機関では、コンピューターとインターネットに対する十分で信頼できるアクセスが可能であることが求められます。また、eCRF を使用した施設スタッフの徹底したトレーニングが義務付けられており、多くの場合にヘルプ デスクによるサポートを受ける必要があります。
eCRF を準拠させる必要がある、実施されている規制要件は以下のとおりです。
- 欧州:ICH GCP E-6、Section 5.5.31
- 米国:FDA – 21CFR Part 11 and Guidance for Industry – Computerised Systems used in Clinical Trials2
システムの検証
電子システムの検証が義務付けられています。システムが満たすべき要件は以下のとおりです。
- 監査証跡を残す。つまり、あらゆる変更が電子的に記録されて追跡できるべきである。
- 不正アクセスに対し保護されている
- 定期的にバックアップされる。つまり、定期的にデータは製品寿命の間アクセスできる異なるディスク、サーバー、またはコンピューターにコピーされる。
米国食品医薬品局は、電子データ収集を受け入れる際の条件の概要を定めた、極めて詳細にわたる厳格な規則を策定しました。
産業界のためのガイダンス
コンピューター システムがデータの作成、修正、保存、アーカイブ、検索、または転送に使用する際には、プロトコルによる特定が推奨される。
使用されるすべてのソフトウェアとハードウェアのドキュメント類を試験記録とともに保存すべきである
メリット
- データ入力のミスが直接検知される
- 範囲チェックと論理チェックにより、データ入力ミスとプロトコル違反が最小化される
- 施設での入力直後に臨床試験依頼者がデータを利用できる
- より早い疑問点の解決が可能である
デメリット
- 長期試験でのみメリットが得られる
- 施設スタッフによりデータが入力される
- 電子データ収集に対する根強い抵抗感がある
- 技術的問題が発生する可能性がある
- データ保護の問題が生じる可能性がある
直接データ収集 (DDC) の例
- 臨床検査データ
- 心電図 (ECG) データ
- 中央画像診断 (磁気共鳴画像 (MRI) の結果)
- 電子患者質問/日記
患者報告結果 (PRO) および電子的取得 PRO (ePRO)
患者報告結果 (PRO) は、患者さんから提供されたすべてのデータに対して使用されます。これには、すべての種類の質問と日記が含まれます。これは、紙に、または電子システムを使用して記録できます。効率的かつ参加者に優しい方法で上記のデータを受信するために使用できるテクニカル ツールは、急速に進化しています。タブレットやテキスト メッセージの送受信 (SMS) などの電子ハンドヘルド システムが使用される場合、ePROという用語が使われます。上記の電子データは、患者さんのご自宅での毎日の日誌か、施設来院時に管理される生活の質 (QoL) に関する質問であることが多いようです。
メリット
患者さんにデータを電子的に提供するよう依頼すると、多くのメリットが得られます。データの質が高くなり、施設スタッフは上記のシステムにより、患者さんの行動や、信頼できる方法でデータが入力されたかどうかを継続的に把握できます。紙ベースの日誌を使用すると、このデータは、日誌を施設に持参する次回の来院の際のみ利用可能になります。また、ePROは、施設スタッフによる試験データの入力の負担を減らします。
より高品質のデータ:
- 自動論理チェックにより、しばしばPRO データが 100% クリーンであることが保証されます。つまり、大規模なデータ クリーニングの必要はありません。
- 警告と特定の状況を反映した eDiary デザインにより、臨床試験実施計画書をより高い水準で遵守できる。
- データがより高品質であるため、試験で必要とされる患者数が減少する可能性がある。
- 問題または逸脱が生じた場合に、迅速な介入が可能である。
- 臨床医がデータの入力ではなく患者さんの治療に集中できる。
デメリット
臨床試験で ePRO を使用する場合に考慮すべきデメリットも多数あります。ePRO を使用する試験は急速に増加しており、統計ではベネフィットが圧倒的に大きくなっていることが示されています。
- より高い技術力が原因で、紙と比べコストが高い
- 一部の患者さんは最新技術に精通していない
- すべての電子機器と同様に、故障や機能停止が生じる可能性がある
- 施設スタッフが、患者さんにシステムの使用法について説明するため、より長い時間を要する
- 電話回線または無線ネットワークを利用可能とする必要がある
患者の参画
- PRO により、臨床試験依頼者は試験期間において参加者に実社会での経験を求める体制を構築できます。
- QoL 評価には、参加者が日常的な作業 (たとえば、試験に参加していなければ難しいと感じるかもしれないもの) を実行する能力の評価が含まれ、試験期間中の参加者の経験と関連する重要な所見が含まれます。これらの実生活におけるデータが、製品が販売承認されて医療技術評価 (HTA) 機関による評価を受けている場合の意思決定に際し、重要となることが多くなってきました。
- したがって、患者エキスパート (患者団体または代表者) は、QoL や他の収集すべき患者データの決定に参画すべきです。これにより、患者がさらに大きな役割を果たす機会が提供されます。
結論:高品質データの重要性
最後に、臨床試験のデータは記録、処理されますが、得られる最高の品質でなければなりません。高品質データの基準は以下のとおりです。
- 評価および分析が可能である
- 有効な結論を導くことができる
- 完全かつ正確である
- 疑問点処理が不要である
- 試験参加者と施設に関わらず一貫性がある
- すべての CRF フィールドが入力済みである
- 読みやすく理解が容易である
- 論理的に意味を成す
- 正しい単位が使用されている
- 試験参加者の経験が極めて明瞭に記載されている
追加資料
- 欧州医薬品庁は医薬品の臨床試験の実施の基準 (GCP) 検査官が電子データ収集として受け入れるものとして要約したリフレクションペーパー (考察論文) を発行しましたEuropean Medicines Agency (2010).EMA/INS/GCP/454280/2010 Reflection paper on expectations for electronic source data and data transcribed to electronic data collection tools in clinical trials.Retrieved 7 September, 2015, from https://www.ema.europa.eu/en/documents/regulatory-procedural-guideline/guideline-computerised-systems-and-electronic-data-clinical-trials_en.pdf
- S. Food and Drug Administration (2003).Guidance for industry:Part 11, Electronic records; electronic signatures – scope and application.Retrieved 7 September, 2015, from http://www.fda.gov/RegulatoryInformation/Guidances/ucm125067.htm
- S. Food and Drug Administration (2009).Guidance for industry:Patient-reported outcome measures:Use in medical product development to support labelling claims.Retrieved 7 September, 2015, from http://www.fda.gov/downloads/drugs/guidancecomplianceregulatoryinformation/guidances/ucm193282.pdf
- Comet Initiativeは、合意された標準化された一連の成果の開発と適用に関心のある研究者から構成されています。「主要な結果セット」.より詳細な情報については、http://www.comet-initiative.org/about/overview および http://www.comet-initiative.org/resources/PlainLanguageSummary を参照してください。
参照文献
- International Conference on Harmonisation (1996).‘Trial management, data handling, and record keeping.’ Guideline for Good Clinical Practice E6(R1) (pp. 21).Geneva:ICH.Retrieved 7 September, 2015 from http://www.ich.org/fileadmin/Public_Web_Site/ICH_Products/Guidelines/Efficacy/E6/E6_R1_Guideline.pdf
- S. Food and Drug Administration (2003).Guidance for industry:Part 11, Electronic records; electronic signatures – scope and application.Retrieved 7 September, 2015, from http://www.fda.gov/RegulatoryInformation/Guidances/ucm125067.htm
添付文書
A2-4.28-v1.1