HTA における経済性評価

Last update: 16 10月 2020

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はじめに

技術が与える影響を評価するには、医療制度や社会で生じる可能性を反映した包括的な情報が必要になります。優れた分析には、専門家のアドバイスや情報源として用いられるさまざまな学問領域の手法を活用することが求められます。

医療政策と医療に関する意思決定において経済が果たす役割が増しているかどうかは、多少議論の的となってきました。医療やヘルスケアに対するリソースが無限にある世界では、経済性評価はそれほど重要ではないでしょう。しかし、”現実の世界” で医療制度に対して割り当てられるリソースはわずかなはずであり、経済性評価により意思決定者をサポートする情報を提供することができます。

経済性評価における方法論的な問題に加え、評価が使用される状況や評価を行う観点 (たとえば、考慮するコストとベネフィット) は医療技術評価 (HTA) の経済性評価を利用する上で重要です。

経済性評価:関連する代替的選択肢の比較

経済性評価は、少なくとも 2 つの選択肢の費用と効果を比較するものです。新技術が関わる場合、通常経済性評価においては、新技術と現在標準的な治療方法とが比較されます。経済性評価はコストと臨床効果の複合的な分析であるため、よく “費用対効果” 分析と呼ばれます。疾病に関連するコストではなく、新薬導入の結果、このコストがどのように変化する可能性があるか分析することに焦点を当てることが重要です。

当然のことながら、最も望ましいソリューションはコストを低減し、患者さまにとって重要な健康アウトカムを改善することです。しかし、新薬導入によりコストがどのように変化するか評価する際は、適切な比較を行うことも重要です。新薬を非常に高価で使用されることが少ない代替薬と比較する場合、新薬はより魅力的に映りますが、このような比較は適切ではありません。健康効果とコストを関連付けるには、両方についての質の高い情報を入手しなければなりません。意思決定者は、新薬を既存の標準的な治療法と比較する方法と、経済的影響について理解する必要があります。

すべての関連コストの精査

費用対効果” 分析の実施にあたり、最初に行うのはコストの推計です。

コストとは、リソースにより生じるもので次を含みます。

  • 薬剤の用量
  • 機器
  • 職員の勤務時間
  • 施設の使用時間

単価とは、特定の製品を 1 単位生産、保管、販売するために生じるコストであり、単価には生産におけるすべての固定費とすべての変動費が含まれます。単価が製品の本当の価値を測る基準であることが理想的ですが、聞き取り調査や会計データにより推測することが多いのが実情です。

リソースの原価計算は、適切な原価計算法を用いて明確で透明性のある方法で実施する必要があります。たとえば、開業医によるサービスの原価計算を行なう際は、特に医師が対象や保険会社により異なる料金を課金できる場合、”料金” (開業医による請求額) と “コスト” (サービスの実際の価格) を区別するため注意が必要です。

また、経済の専門家は、評価に際し誰のコストを含めるか決定する必要があります。たとえば、作業能力の低下は生産性の損失を招きます。働くことができない人々は収入を得られず、経済に貢献できません (たとえば、納税者として)。病院などの医療施設の観点から分析が実施されている場合は、このようなコストは含まれない可能性があります。特定の状況に基づくと主張している評価においても、コストとアウトカムは大幅に異なったり、不適切に適用されていたりする可能性があります。

標準的アプローチの使用

差異が生じるこのような可能性を考慮し、高品質な評価には、コストの推計値や健康アウトカムの根拠と評価に使用されたデータの情報源を明記することが極めて重要です。多くの医療制度において、経済性評価のガイダンスが開発されてきました。これにより、単に分析者が評価に際し使用した基本的な仮定や手法が異なるため、ある技術の評価が他の技術よりも高く映ることを防ぎます。

このようなガイドラインのデータベースは、現在、国際医薬経済・アウトカム研究学会 (ISPOR) により管理されています1。このようなガイドラインが入手可能であるにもかかわらず、通常、その多くが適切に遵守されていません。これにより、場合によっては、一貫性を欠くものとなったり、過度に高く、あるいは低く評価されたりする可能性があります。

優れた臨床効果評価

すべてのコストが特定されて算出が完了すると、分析者は異なる選択肢のコストと臨床効果を比較する必要があります。費用対効果分析に着手するには、臨床効果の分析が必要とされます。場合によっては、新薬の分析者は、新薬が既存の選択肢と同様の効果を発揮すると仮定したくなる誘惑に駆られて、単にコストのみに焦点を当てる可能性があります。これは新薬の価値を検証する効果的な方法に映りますが、実際には、新薬が他の薬剤と “同等” であることは稀です。

方法と結果の精査

経済性分析には多くの情報が求められる可能性があります。新薬により影響を受ける可能性がある複数の特性が存在し、それぞれを正しく評価・分析する必要があります。また、コスト分析においては、インフレーションやその他の要素に応じて調整が必要となる可能性があります。データを結合する正しい方法は 1 つではないことが多く、信頼性の高い評価においては、複数のアプローチを用いて結果の分析方法の選択が与える影響を比較します。

費用帯効果が単独の調査で観察されたコストとアウトカムに基づいている可能性はありますが、このようなケースは稀です。より多くの場合、分析は異なる多数の情報源に基づいており、この情報は数学的に処理されています。

HTA 機関による分析がバランス良く行われてガイドラインを遵守したものであることを保証する最良の方法は、当初から経済性評価を作成することにあります。しかし、これは費用が高く時間を要する試みとなる可能性があります。また、HTA 機関は、批判的な洞察力に欠けていたり、メーカーが有する情報を持たなかったりする場合があります。一部の HTA 機関は自らモデルや分析を作成しますが、多くの機関は費用と所要時間を理由に行いません。

費用対効果分析の有用性の評価指針として、以下の質問を使用できます。

  1. 比較対象の選択肢は正しいものでしたか。
  2. すべての関連コストが含まれていますか。
  3. ガイドラインは使用されましたか。
  4. 有効性に関する情報のソースは何ですか。
  5. 独自に調査を実施しましたか。あるいは、メーカーによる分析の再検討ですか。

参照文献

  1. International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes Research (2015).Pharmacoeconomic Guidelines around the World.Retrieved 8 December, 2015, from http://www.ispor.org/PEguidelines/index.asp

A2-6.03.2-v1.1

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