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非臨床試験の予測価値

はじめに

医薬品の発見および開発プロセスの初期段階から、 非臨床試験において集められたデータは有効性と安全性の意思決定に関して極めて重要です。例えば、リスクマネジメントに関する計画、リスクの軽減、医薬品の販売承認の条件と仕様、市場での医薬品の使用、市販後の安全性のモニタリング (医薬品安全性監視) に関して極めて重要です。

非臨床試験で集められた情報は以下の決定に際して主要な役割を果たします:

  • 臨床試験に関して
  • リスクマネジメントとリスク軽減に関して
  • 医薬品販売承認申請に関して
  • 患者さんへの医薬品の処方に関して
  • 市販後の試験やモニタリング試験に関して
  • など。

次の枠組みで、医薬品の発見と開発のプロセス中に極めて重要なニーズと因子を説明しています。非臨床試験に関する情報はこれらのニーズと因子を判断する際に主要な役割を果たします。本稿では、ヒトの患者の臨床試験に関する重要な予測因子としての非臨床試験の重要な役割を検討します。

医薬品開発の成功のカギ – 5 R のフレームワーク1

  • 適切な標的
    • 医薬品の標的と疾患との間の強い相関関係
    • 入手可能な予測バイオマーカー
  • 適切な組織
    • 適切な生物学的利用率および組織暴露
    • 薬力学的バイオマーカーの定義
    • 前臨床および臨床における薬物動態と薬力学についての明確な理解
    • 他の医薬品との相互作用 (薬物・薬物相互作用) についての理解
  • 適切な安全性
    • 明確な安全性マージン
    • 副次的薬理作用リスクについての理解
    • 反応性代謝物、遺伝毒性、および他の医薬品との相互作用についての理解
    • 危険な副作用と他に被る不利益の理解
  • 適切な患者さん
    • 最も敏感な患者集団の特定
    • 当該患者集団のリスク・ベネフィット関係の定義
  • 適切な商業的可能性
    • 費用対効果、今後の標準治療
    • 市場アクセスの重視

実験室や動物実験から患者へ

候補化合物はその安全性プロフィールと予想効果に関して裏付けとなる情報が十分集まるまでヒトに対して投与できません。非臨床試験でこの裏付けとなる情報が示され、重要な予測因子として、「プルーフ・オブ・コンセプト (PoC)」、推奨投与レジメ、適切な安全性モニタリング、適切な選択基準と除外基準などが提供されています。

非臨床細胞実験 (試験管内) と動物実験 (生体内) については以下を実施します。

  • 候補化合物の有効性を示すこと、
  • 候補化合物の安全性プロフィール、例えば最大耐量を調べる試験に関する知識を提供すること、および
  • ヒトでは試験できない候補化合物の影響、例えば胎児や妊婦に対する化合物の影響を予測すること。

動物からヒトへの外挿

実験室や動物実験で集められた情報から医薬品のヒトへの適用を外挿するには専門的判断が求められます。外挿プロセスに関する有用なルールが作成され、欧州医薬品庁 (EMA) のヒト用医薬品委員会 (CHMP)2 のガイドラインおよび調和国際会議 (ICH)3 のガイドラインで述べられています。これらのガイドラインでは臨床試験の前に実施する必要のある試験のタイプが規定されています。

候補化合物の非臨床プログラムに関する課題が規制当局による審査時の医薬品販売承認申請 (MAA) の評価に際して様々な反対議論の原因となることがあります。そうした事例があると、候補化合物がヒトにおいて治療を意図していた効能に使用される非臨床モデルの妥当性に関して疑いが生じることになります。このような問題を避けるため、実験室や動物での実験で収集される結果が有効な予測因子として機能するように、非臨床試験を入念に計画する必要があります。

臨床試験の開始前に問題なく完了しなければならない非臨床プログラムの範囲と程度は以下の因子に応じて変わります:

  • 標的疾患のタイプと重症度
  • 候補化合物が治療を意図している患者集団の大きさと個体群動態
  • 臨床試験相 (第Ⅰ相、第Ⅱ相、第Ⅲ相、市販後の第Ⅳ相)、および
  • ヒトにおける予想投与量と予想投与期間。

これらの検討事項を使って非臨床プログラム実施中に実施する試験の種類や動物モデルの正当性を示します。

多くの企業が規制当局 (例えば、欧州医薬品庁 (EMA) や各国の所轄官庁) から非臨床試験に関する科学的な助言を求めています。科学的な助言があると、企業は適切な検査や試験を実施し、MAA 実施中に検査の設計について大きな反対議論が出ないようにできます。こうした所轄官庁の助言を求め、それに従うことで、MAA の段階で肯定的な結果が出る確率が高まります。助言は最新の科学的知識に照らして与えられ、企業の提示する文書に基づいています。

非臨床データは候補化合物の開発プロセスの初期の段階で最も重要なものです (図1参照)。医薬品が処方されるまでに (MAA 後)、安全性と有効性に関する非臨床データの多くはヒトの患者さんにおける臨床試験から得たデータに置き換えられます。しかしながら、一部の事例、例えば、候補化合物が癌または生殖機能に影響を及ぼすといった事例では、倫理的な配慮によってヒト試験参加者のデータの収集は行われません。このような事例では、臨床での新しい医薬品の使用は、長期にわたって非臨床データに従うことになります。しかしながら、これも結局のところはこうした事例について、例えば市販後のライフサイクル管理や医薬品安全性監視の一環として、収集されたデータに置き換えられることになります。

図 1 は経時的な医薬品開発プロセスの非臨床データの相対的な重要性とそのデータへの依存を示しています。臨床データよりも非臨床試験のデータの方に開発プロセスのより後の方の段階まで依存することになります。

理想的には、開発期間中に生じたすべての非臨床の安全性に関する懸念は MAA の時点までに解決することが望まれます。しかしながら、関係書類の提出や評価の時点で、安全性に関する懸念の主な原因として、がん原性、遺伝毒性、遺伝毒性不純物、生殖毒性、肝毒性などが依然として解消されていない場合があります。

倫理的配慮

ヒトに対するリスクアセスメントのモデルとして、また、ヒトの病態を再現するためのモデルとして動物を用いることに関する受け入れ可能性については、ヘルシンキ宣言で明らかにされています。4 このヘルシンキ宣言では、候補化合物を健常志願者に初めて暴露する際の倫理的なおよび科学的な正当性が規定されています。さらに、この宣言では、生物医学研究は適切に実施された実験室や動物における実験、ならびに科学文献の十分な知識に基づくべきであると記述されています。研究に使用する動物の福利は尊重しなければなりません。

非臨床試験:ヒトにおける試験の適切な予測因子となるだろうか?

歴史的に述べると、非臨床試験の予測価値に関する課題は、非臨床試験では容易に予測できないヒトにおける薬物動態、薬力学 (有効性)、安全性の観点に関連しています。コンピューターによる多くの新しいテクノロジー (コンピュータ-モデル)、ファーマコゲノミクス、バイオマーカー、臨床試験への新しい探索的デザインが急速に開発されて、それらすべてが非臨床試験の予測価値に肯定的な影響を及ぼしています。

追加資料

参照文献

  1. Adapted from Cook, D., Brown, D., Alexander, R., March, R., Morgan, P., Satterthwaite, G., & Pangalos, M. (2014).Lessons learned from the fate of AstraZeneca's drug pipeline:A five-dimensional framework.Nature Reviews Drug Discovery, 13, 419-431. doi:10.1038/nrd4309
  2. European Medicines Agency.(2015) Non-clinical guidelines.Retrieved 24 July, 2015, from http://www.ema.europa.eu/ema/index.jsp?curl=pages/regulation/general/general_content_000083.jsp&mid=WC0b01ac0580027548
  3. International Conference on Harmonisation (2015).ICH Guidelines.Retrieved 24 July, 2015, from http://www.ich.org/products/guidelines.html
  4. World Medical Association.(2013) WMA Declaration of Helsinki – Ethical Principles for Medical Research Involving Human Subjects.Retrieved 24 July, 2015, from http://www.wma.net/en/30publications/10policies/b3/
  5. Nieto-Guiterrez, M. (2011) Non-clinical Assessment Requirements.Brussels:European Medicines Agency.Retrieved 24 July, 2015, from http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Presentation/2011/06/WC500107868.pdf

添付文書

A2-2.02.1-v1.3