臨床研究の結果:公表

はじめに

臨床試験では、新しい薬剤と改善した治療を患者に使用できるようにします。これらの治療の有効性と安全性に関して臨床試験で得られる情報は、患者および担当医が十分な情報を得て治療の決定を行うために非常に重要です。治療の有用性については、治療を調査する臨床研究から得られるすべての結果を取り込んで、全体的に評価する必要があります。臨床検査に関する情報へのアクセスは、研究に要する労力が無駄に繰り返されることを低減し、研究の効率を上げるための 1 つの重要な手段です。臨床検査情報の透明性は、臨床研究結果の信頼性を確保するために重要です。読者は、臨床検査について公表された情報を批判的にレビューする必要があります。

臨床試験結果とは

臨床研究または試験の結果とは、その臨床研究中に集めたすべてのデータ、計測値、および統計解析のことです。

研究結果には、以下の要素が含まれます。

  • 試験対象母集団の説明:各研究治療群で研究を開始、完了、脱落した参加者の人数。
  • ベースラインデータ:臨床研究の開始時に収集したデータ。これには、人口統計 (年齢、性別など)、患者特性 (体重、身長、血圧など)、研究固有の測定 (疾病の特性、過去の治療など) が含まれます。
  • 治療の参加者に対する影響を知るための測定:第 II 相試験での薬剤活性、第 III 相試験での患者の生存率や生活の質など。
  • 研究の参加者が体験した有害事象:痛み、悪心、その他の副作用など。

臨床試験報告書 (CSR) は、臨床研究の結果が記載された正式な文書です。ヒトに対する使用について、証拠を提供します。CSR は、規制当局によって定められた形式に従います。CSR は、治験依頼者によって準備され、コモン テニクカル ドキュメント (CTD) の構成部分となります。臨床試験報告書へのアクセスは、機密保持と商業上の問題から、通常は治験依頼者と医薬品販売承認申請 (MAA) を評価する規制当局のみに制限されます。

臨床試験結果の公表

臨床研究と分析の終了時には、研究者が学会や医学雑誌で結論を公表することが可能です。医学雑誌で公開する場合は、その前に、雑誌編集者の指名した独立した専門家が原稿を査読します。

公開する内容には、読者が研究の所見について自分の判断を下せるように、十分な詳細情報を含める必要があります。読者が結果の妥当性を信頼する程度は、公表内容の品質によって影響されるため、結果の報告を標準的な方法で行えるように、実施している研究の種類に応じてさまざまなガイドラインやチェックリストが入手可能です。

現在、多数の機関が臨床試験情報の登録と開示を奨励または要求するイニシアチブに参加しています。欧州では、EudraCT、欧州医薬品庁 (EMA) の欧州臨床試験データベースに、欧州で実施されるすべての医薬品臨床試験に関する情報が収集されています。2014 年 7 月時点で、このデータベースには試験の結果概要も公表されています。2015 年 1 月 1日 以降に開始された EU での試験の結果は、肯定的なものであるか否定的なものであるかに関わらず、必ず公表しなければなりません。世界保健機関 (WHO) は、同機関の国際的治験登録プラットフォーム (ICTRP) を通して、あらゆる治験の登録と報告に関する国際基準を設定しています。米国ではレジストリ clinicaltrials.gov が同様のアプローチを取っています。

臨床研究の結果における証拠のレベル

治療上の決定は、現在、証拠に基づく医療 (EBM) に大きく依存しています。EBM では、臨床経験と対照研究や調査から得られた現時点で最良の証拠を組み合わせて、患者に最良の治療を提供します。EBM では、患者と担当医が十分な情報を得て治療上の決定を下せるように、治療の安全性と有効性に関する情報が重要視されています。

EBM では、さまざまな形態の治療および医療全般の効果について、現時点で最良の証拠に関する知識とレビューに依拠しています。治療に関する証拠の検索を単一の公表に限らないことが大切です。複数の異なる情報源から得られた結果を比較する際には、さまざまなレベルの証拠が存在することを念頭に置くことが大切です (下の図 1 を参照)。証拠のレベルでは、研究の品質を表して分類するため、研究で提供する証拠の強さが分かります。無作為化、対照、盲検試験は、ベネフィットとリスクについて最良の科学的証拠を提供しますが、常に利用できるとは限りません。メタ分析は、異なりながらも互いに関連性を持つ複数の研究から得た結果を対比および結合したデータについて行う統計に基づくレビューです。複数の研究にわたるパターン、相違、その他の関係性を見つけ出すことを目的とします。メタ分析は、個別の研究よりも強力な結論をサポートできますが、出版バイアスにより欠陥を生じる分析になる場合があります。

一般に、以下の種類の研究があります。

  • 統計的に一貫した結果を示し十分な検出力のある高品質の無作為化試験、または無作為化試験のメタ分析
  • 検出力が不十分か、バイアスの可能性があるか、統計的に一貫性のない結果を示す無作為化試験
  • 同時対照群のある非無作為化試験
  • 歴史的対照群のある非無作為化試験 (典型的な単一群第 II 相試験など)
  • 専門委員会によるレビュー、症例報告、レトロスペクティブ研究

公表内容におけるエラーの発生源

公表内容に含まれるエラーの最も一般的な発生源には、次の 3 つがあります。1

  1. 統計的検定と結果の誤使用および誤った表現のリスク。仮説検定 (p 値、検出力) の数値の意味 (推定) や解釈に関する混乱が原因となります。
  2. 陽性の効果を探して行ったデータの浚渫または単一のデータセットにおける仮説の大規模な検定数。単一のデータセットで多数の仮説を検定すると、いくつかの仮説で実際には相関が存在しない場合でも誤って統計上有意なように見えてしまいます。データ マイニング手法を使用している研究者は注意しないと、一見有意な結果により誤った判断を下しやすくなります。
  3. バイアス。研究では、1 つのアウトカムや回答を他よりも選択したり奨励したりすることで、データのサンプリングや仮説検定に系統的な誤差が取り込まれると、バイアスが発生します。バイアスは、常に意図した行動の結果というわけではありません。無意識に取り込まれることもあります。

参照文献

  1. Goldacre, B. (2010) Bad science:Quacks, hacks, and big pharma flacks.New York:Faber and Faber.
  2. Rennie, D., & Guyatt, G. (2002).Users' guides to the medical literature:A manual for evidence-based clinical practice.Chicago, IL:American Medical Association.

添付文書

A2-4.35.1-v1.2