疫学
はじめに
疫学は、定義された対象集団での疾患、負傷、および他の健康関連事象の発症頻度、分布、予防、管理に影響を与えるさまざまな要因を研究する学問です。
疫学は、公衆衛生の基礎の 1 つであり、疾患の危険因子や予防医学の対象を特定することにより、方針決定や証拠に基づく医療の実践を導くために役立ちます。疫学者は、試験デザイン、データの収集と分析、結果の解釈および普及に対して情報を提供します。
薬剤疫学
薬剤疫学は疫学から派生した、特定の集団での医薬品の使用や効果について研究する学問です。薬剤疫学では、患者、疾患、医薬品間の関係について研究します。
薬剤疫学の適用例を挙げます。
- 特定集団での医薬品の使用および効果をモニタリング
- 疾患発生の測定
- 疾患の自然史の研究
- 特定疾患の患者または疾患のない患者の特性の測定
- リスク、ベネフィット、目的の作用および非目的の作用と医薬品や疾患の関連性を特定
- リスク最小化対策の評価
薬剤疫学の基本概念には以下が含まれます。
- Cause-consequence
- リスク推定
- 試験タイプ
- データ源
- 手法
Cause-consequence
疾患は、ウイルス、細菌、先天性、加齢による後天性の代謝の変化、遺伝的要因、不健康な生活習慣などによって引き起こされます。個別の要因が医学的状態を引き起こすメカニズムは、非常に単純な場合 (スケートボードの転倒による腕の骨折) や非常に複雑な場合があります (アスピリンとナプロキセンを併用し、遺伝的に感染しやすく、高コレステロール血症で、喫煙、肥満、不活動の生活習慣を持つ人は虚血性心筋梗塞のリスク上昇をきたす可能性があります。ただし、これらの多くの要因は絶対的ではありません。たとえば、肥満気味の場合や極めて肥満している場合もあり、これらはすべてリスクに影響を与えます)。健康に関しては、個人によって異なり、それぞれ異なる自分の健康の定義を持っています。薬剤疫学は、結果に関して (有益性または有害性) これらの要因 (潜在的原因とみなされる) のさまざまな重みを理解するために役立ちます。
リスク、リスク率、相対リスク
リスク (累積発生率としても知られる) は、疫学でも日常的に使用する場合と同様の意味を持ちます。可能性のことです。リスクとは、「否定的な事象が生じる確率」のことです。疫学でのリスクは、特定の危険に曝露した後、指定した時間内に、既知の集団で健康事象が発生する観測または算出された確率を意味します。
例えば:200 人 (研究対象集団) が雪の中を薄着で 2 時間のウォーキングをします (リスク要因)。ウォーキング後、10 人が風邪を発症しました。雪の中を薄着でウォーキングした後に風邪を発症するリスク (研究中に発現した新しい症例数) は、5% になります。
リスク率 (発生率) には、時間の概念が加わります。リスク率でも、集団内で発現した健康事象の新しい症例の頻度を測定します。ただし、リスク率では、各参加者が観察されている時間と、調査中に健康事象を発症するリスクがある時間の合計を考慮に入れます。リスク率は、新しい健康事象が特定の時間枠で生じる頻度です (たとえば、ある期間内に生じた新しい症例数)。上記の例では、2 時間おきに 10 例となります。
上記の例のすべての参加者は、同じ時間量 (2 時間) 雪の中を歩きました。全員が同じ時間量でリスク要因に曝露されました。しかし、実生活ではこれとは異なります。個人がさまざまな時間量でリスク要因に曝露されます。これを解決するため、疫学では、各被験者の曝露時間を個別に検討し、すべてを合計してコホート (研究対象の人々のグループ) ごとの「合計曝露時間」を構築します。
相対リスクの測定値では、1 つの集団 (曝露集団など) 内の健康事象を別の集団 (非曝露集団など) と比較した際の頻度の増加を反映し、これをベースラインとみなします。
相対リスクは曝露と疾患の相関関係の強さを測ります。相対リスクは、観察された相関に因果関係があるかどうかの評価に使用できます。
疫学的研究のタイプ
疫学的研究を実施するにはいくつかの方法があります。方法は、曝露が事前に定められているかどうかにより (実験的研究または非実験的研究)、および時間に関して評価がどのように行われるか (プロスペクティブまたはレトロスペクティブ研究) により異なります。
実験的研究
実験的研究では、治験実施計画書によって曝露を決定します。たとえば、公共給水にフッ化物を添加した際の虫歯予防の有効性を研究するために、ニューヨーク州の類似した 2 つの町を検討しました。1 つの町では、公共給水にフッ化物を添加し、もう 1 つの町では公共給水に対して何も行いませんでした。数年間にわたり、両方の町の居住者に歯科検査を行い介入の効果を測定しました。
非実験的研究
非実験的コホート研究では、治験実施計画書によって曝露を決定しません。非実験的コホート研究は、観察研究または実生活研究としても知られています。コホート研究は、しばしば一般集団の標本で実施されます (彼らのすべてがインフォームド コンセントを提出した志願者です)。たとえば、米国の有名なコホート研究「Nurses’ Health Study (看護師健康調査)」では、数千人の看護師を募集しました。2 年ごとに、研究の参加者には詳細なアンケートが送付されます。看護師は、食事、生活習慣、医薬品、家族歴、勤務形態、家庭生活などの情報を報告し、発症した疾患についても報告します。
プロスペクティブ研究
プロスペクティブ研究 (前向き研究) では、リスク因子と長期的影響の間に疑問を投げかけ仮定を置きます。プロスペクティブ試験は、情報を収集する前にデザインされます。特定のリスク因子の点で異なる類似した個人のグループ (コホート) を特定して追跡し、これらの因子が長期にわたり特定の転帰の発生率にどのように影響をもたらすかを観察します。たとえば、プロスペクティブ研究では、肺癌の 20 年目の発症率がヘビースモーカーで最も高く、次いで中等度の喫煙者、非喫煙者の順に高いという仮説を検証するために、喫煙習慣の異なる中年のトラック運転手のコホートを追跡することもできます。
レトロスペクティブ研究
レトロスペクティブ研究 (後ろ向き研究) は、疑問を投げかけ、過去を振り返ります (観察した事象からリスクまでの間)。これらの研究では、通常は行政データや診療記録など、研究以外の理由で収集された情報を使用します。試験を開始した時点で、研究対象の健康事象は既に発生しています (または発生していません)。たとえば、レトロスペクティブ研究では、医療ファイルから心筋梗塞の症例すべてを選択し、この事象の説明になる可能性のあるリスク因子の時点を時間的に振り返ります。症例対照研究がレトロスペクティブ観察研究の一般的なタイプであり、転帰を異にする 2 つの既存のグループを特定し、想定したリスク因子を基に比較するものです。
薬剤疫学で使用されるデータ
臨床データ
疫学的研究では、臨床データを使用して、参加している患者の特定のサブグループについて追加の分析を行ったり (事後 (ポストホック) 分析)、臨床試験のセットを複数組み合わせて、特定の治療に関するすべての入手可能な証拠の概要を取得したり (メタアナリシス) できます。
フィールドデータ
疫学者は、観察研究を構築するためにデータをフィールド (現場) で収集します。極めて有名な例が、United States National Health and Nutrition Examination Survey (米国国民健康栄養調査) です。この研究では、米国での生活習慣、食事、健康状態に関する膨大な情報のセットを収集しています。
レトロスペクティブな観察データ
これらは、健康保険会社に提出された請求、電子カルテ、特定の団体から入手可能なカルテレビューなどのソースから得られるデータです。このようなデータの利点は、通常これらが大規模であり、特定の医療システム内 (保険会社、病院、国の医療システム全体など) の任意の疾患、医療処置、治療、関連費用に関する多様な情報が含まれている可能性があることです。
登録
登録 (レジストリ) は、特定の目標を事前に定めた、データの前向きな収集方法です。たとえば、SEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results: 調査、疫学、最終結果) や、長期的な安全性をモニタリングするために特定の医薬品による治療を受けた患者を追跡する登録など、複数の癌登録があります。
[glossary_exclude]追加資料
- International Society for Pharmacoepidemiology (2007).Guidelines for good pharmacoepidemiology practices (GPP).Retrieved 14 September, 2015, from http://www.pharmacoepi.org/resources/guidelines_08027.cfm
- European Medicines Agency. (n.d.). Good pharmacovigilance practices. Retrieved from https://www.ema.europa.eu/en/human-regulatory-overview/post-authorisation/pharmacovigilance-post-authorisation/good-pharmacovigilance-practices
- European Network of Centres for Pharmacoepidemiology and Pharmacovigilance. (n.d.). Methodological Guide. ENCePP Toolkit.Retrieved 9 March, 2024, from https://encepp.europa.eu/encepp-toolkit/methodological-guide_en[/glossary_exclude]
添付文書
A2-5.23-v1.1