治験薬概要書

はじめに

治験薬概要書 (IB) は、治験の実施に関与する臨床医、治験責任医師、その他の医療従事者 (治験コーディネーターやスタディ ナースなど) に提供されます。IB はヒトに対するその医薬品の試験に関連した非臨床および臨床データを編集したもので、治験医薬品に関する情報を要約した単一の最も包括的な文書となります。

治験薬概要書は治験依頼者が準備し、その配布も治験依頼者が管理します。治験の IB は、治験申請 (CTA) とともに承認を受けるため所轄官庁 (NCA) に提出されます。

治験薬概要書はなぜ重要なのか

IB は治験責任医師やその他のスタッフが治験実施計画書に沿って作業を行えるよう、治験医薬品の背景情報を提供するものです。IB は臨床医や治験責任医師となる可能性のある医師が、独立して公平に試験の妥当性を評価するために必要な情報 (ベネフィット・リスク比など) を提供します。

IB に記載される情報には、用量、投与頻度、投与の方法、安全性モニタリング手順など、治験中の試験参加者の臨床管理を支援する知見も含まれています。

 

治験薬概要書の内容

治験における「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」の法的枠組みによれば、IB に記載される情報は「簡潔、単純、客観的、公平、非宣伝的」でなければなりません。これは特に、治験責任医師がこの文書を理解し、試験の妥当性について情報に基づく公平なベネフィットとリスクの評価を行えるようにするために重要です。

IB の内容はデータを生成した研究者によって承認される必要があり、少なくとも年に 1 回または重要な新しいデータが受領された際には、レビューおよび更新を行う必要があります。

IB にはそれぞれの治験医薬品について、以下の内容が含まれていなければなりません。

  • 治験依頼者名および薬剤に関する情報 (研究番号、一般名、商標)
  • この文書を機密扱いとし、治験責任医師のチーム、審査委員会、倫理委員会のみが使用しなければならないという指示を含む、守秘義務に関する文言
  • 薬剤の非臨床および臨床試験によって収集された結果を編集したもの
  • 治験医薬品の特性および履歴に関する背景情報

 

治験薬概要書:目次

IB には以下のセクションが含まれます。

  • まとめ
    • 薬剤の開発段階に関連する重要な情報を強調した、治験責任医師へのガイドライン
  • はじめに
    • 背景情報、研究実施の根拠、治験薬中の活性物質の化学名と一般名 (および該当する場合は商標)、予定されている適応
  • 物理的、科学的、薬剤学的な特性および製剤設計
    • 他の既知の化合物との類似性を含む、治験薬および賦形剤 (非活性成分) の関連する特性と、製剤の保管および取扱いに関する指示
  • 非臨床試験
    • 薬理試験、毒性試験、薬物動態試験、代謝試験による結果の要約。用いられた方法論、結果、および所見の妥当性の説明。動物実験や検査室試験および用量についての情報この要約には、この化合物に関する所見の妥当性と、ヒトにおける望ましくないまたは意図しない潜在的効果についての議論も含める必要があります。
  • ヒトにおける効果
    • 毒性、薬物動態、代謝、安全性、有効性に関する試験の結果と、可能であれば各治験の要約。治験薬が承認済みの国や未承認の国を含む以前の市場経験による情報
  • データの要約と治験責任医師向けのガイドライン
    • 治験における薬物有害反応 (ADR) やその他の問題を予測しやすくするための、非臨床および臨床データの全体的な説明

 

治験薬概要書に関する規制

規制当局 (欧州医薬品庁 (EMA) や各国の所轄官庁 (NCA) など) では、研究が行われるすべての医薬品について最新の IB を要求しています。IB は治験申請 (CTA) とともに規制当局に提出し、規制当局が IB に対する更新もすべて審査して、その正確性、完全性、公平性を確認します。

場合により、たとえば治験薬が既に販売承認 (MA) を受けておりその薬効薬理が医師の間で広く理解されている場合などは、詳細な IB が不要になる可能性もあります。そのような場合は、製品概要 (SmPC) か、規制当局によって許可される場合は添付文書やラベル表示が、IB の適切な代替物として代わりに利用されることがあります。ただしその代替物には、治験責任医師にとって重要となりうる治験薬のあらゆる側面について、最新の包括的かつ詳細な情報が記載されていなければなりません。

市販されている薬剤を新たな用途 (効能の追加) について研究する場合は、その新しい用途に固有の IB を準備する必要があります。関連性のある新しい情報を入手した場合、治験責任医師および研究倫理委員会 (REC) には、可能であればその新しい情報を改定版 IB に含める前に、その情報を知らせる必要があります。

 

A24.01V1.1