安全性情報

安全性情報とは何ですか?

安全性情報は、有害反応または安全性の所見を規制当局、医療提供者、患者に伝えるために導入されます。さまざまな情報を含む広義な用語で、製品情報 (製品概要 [SmPC]、添付文書 [PL]、包装表示) や公的な評価報告の情報も含みます。販売承認保持者(MAH)、保健当局 (HA) により提供され、規制、禁忌 (患者に有害なため医薬品の使用を禁止する状況)、用量制限、警告、推奨事項などを含みます。

安全性情報の目的は

  • 患者に有害反応が発現するのを防止する;
  • 医薬品の安全かつ効果的な使用や、適切な患者の治療の適切な臨床管理に関して、科学的根拠に基づくタイムリーな情報を提供する;
  • 必要に応じて医療行為 (自己治療行為を含む) の変更を容易にする;
  • 医薬品使用に関する姿勢、決断、行動を変更する;
  • リスクを最小化する行動を支援する、 そして
  • 医薬品の合理的な使用に関する情報に基づいた決定を促進する。

安全性情報は公衆衛生の責任であり、医薬品安全監視の目的達成、医薬品の合理的で安全、効果的な使用の促進、有害反応 (ADR) による危害防止、さらに患者および公衆衛生保護へ貢献しています。

なぜ安全性情報が重要なのですか?

安全性情報は有害反応 (ADR) を防止するうえで重要なツールです。

安全性情報により提供されるものは、

  • 報告、解析された過去の経験から得られた知識。
  • 患者への治療に適切な臨床管理についての推奨事項。

また、患者向けの安全性情報により次の点が可能です。

  • 特定の医薬品に対する患者の姿勢に影響を与える。
  • 起こりうる副作用の防止に役立つ。
  • 投与過誤を減らす。
  • 医薬品の安全な使用について患者に通知する。

どのように医薬品の市販後の安全性情報を収集しますか?

販売承認 (MA) を受けた医薬品を患者に投与開始後に、医薬品の安全性プロフィールを継続して監視することが重要です。医薬品のベネフィットとリスクのバランスを販売承認されるまで慎重に評価しますが、長期にわたり大規模な集団でのデータの共有と監視により、実際の場面でのベネフィットとリスクのバランスへの理解が深まり、非常にまれな副作用を判定しやすくなります。したがって実際の使用を通して医薬品はすべて安全性を監視することが必要不可欠です。

販売承認保持者 (MAH) は、医薬品の市販後調査中、医療文献などで、患者や医療従事者による医薬品の有害反応の疑いのある自発的症例報告を収集、検証、および解析をする責任を担っています。重篤な有害事象など安全性に関する緊急の問題が特定される場合、緊急事態ごとに有害事象報告を共有しなければなりません。EU では、こうした情報を MAH が電子版の EudraVigilance システムを利用して報告しなければなりません。EudraVigilance とは医薬品に対する疑いのある有害反応を集めた中央集中型欧州データベースで、欧州経済領域 (EEA) で承認され、治験で検討されているものです。このシステムは、欧州医薬品庁 (EMA) が欧州連合 (EU) の医薬品規則ネットワークを代表して運営しています。EMA のファーマコビジランス リスク評価委員会 (PRAC) が EudraVigilance からのシグナルを評価し、結果として規制措置を勧告する場合があります。

Yellow Card 副作用報告システム – 安全性情報収集の一例

英国では、医薬品医療製品規制庁 (MHRA) および医薬品委員会 (CHM) が「Yellow Card 副作用報告システム」という ADR 自発報告システムを運営しています。これまで認識されていなかった有害反応を特定する早期警告システムとして機能します。患者は Yellow Card 副作用報告システムを使って、医薬品使用中に発現する副作用を報告し、介護者や両親もケアしている患者に代わりそれを使って副作用を報告します。医療従事者もまた、そのシステムを使って医薬品による可能性のある副作用を報告します。

Yellow Card 副作用報告システムによって収集した情報は、MHRA が患者の臨床管理に影響を及ぼすおそれのあるリスクファクターを特定したり、理解を改めたりするのに役立てることができます。医薬品のベネフィットやリスクの性質に関する情報により、患者や医療従事者が ADR 発現の際の治療選択肢や管理について情報に基づいた決定を下すのに役立ちます。

Web-RADR – 安全性情報を収集するアプリ

IMI の WEB-RADR プロジェクト (https://web-radr.eu) が、国家保健医療局と協力してスマートフォン アプリを 3 種類開発し、患者や介護者、医療従事者の薬物有害反応 (ADR) 報告や最新情報とニュース アラートの受信が可能になりました。

  • 英国 (イエローカード) – 2015 年 7 月 14 日開始。
  • オランダ (LAREB) – 2016 年 1 月 29 日開始。
  • クロアチア (HALMED) – 2016 年 5 月 18 日開始。

主な特徴:

  • 紙や電子版の ADR 報告用紙の便利な代替品。
  • 副作用報告の使用が簡単。
  • iOS と Android で誰でも利用が無料。
  • ユーザーは次のことが可能です。
    • 公式ニュースやアラートを受信する医薬品の「監視リスト」の作成
    • 注目すべき医薬品について国家管轄当局 (MHRA、LAREB、HALMED) が受信した多数の報告書数を表示
    • ADR 報告書受領の迅速な確認
    • 提出済みの ADR 報告書の更新を送信
    • アプリを通して送信したこれまでの ADR 報告書の表示

新しい安全性情報は、どのように伝達しますか?

報告されただけでは安全性は改善されません。報告に対する対応こそ安全性の改善につながる変化をもたらすのです。たとえば、安全性の新たな懸念が確認された場合、添付文書 (PL) や製品概要 (SmPC) に記載されている安全性情報を更新します。

新たな安全性情報の重大性によって、さまざまな伝達経路が考えられます。次の経路を含みますが、これに限定されません。

  • MAH や国家管轄当局が医療従事者 (DHPC) に直接伝達。
  • 患者や一般大衆が安全性の懸念に関する科学的根拠や規制活動を理解しやすくなる、平易な表現 (たとえば質疑応答のフォーマット) で発行した文書。
  • 報道による伝達、主にジャーナリスト向けのプレスリリースや説明など。ジャーナリストはより幅広い聴衆に届くための重要な手段です。しかし、医療従事者に直接伝達する場合、医療従事者は、プレスへの連絡と同時あるいはそれ以前に情報を受信するべきです。
  • 国家管轄当局や MAH のウェブサイト。アクセスが容易で理解しやすい情報を提供できます。医薬品安全監視に関する新たな法律制定によると、EU が承認するすべての医薬品情報や各国の医薬品ウェブポータルへのリンクを掲載したEU 医薬品ウェブポータルを作成し、安全性情報のオンラインでの共有することで、EU がより重要な役割を持つと述べています。
  • ソーシャルメディア等によるウェブベースの伝達。
  • 管轄当局による公示やニュースレター。
  • 外部からの問い合わせに対する回答や、特定の安全性の問題に関する伝達を支援するために管轄当局によって用意された説明文書など、管轄当局間の伝達。
  • MAH または管轄当局が導入したシステムで、一般の個人会員からのの問い合わせに回答。
  • 科学論文や専門団体の出版物。
  • 患者団体のウェブサイトや出版物。

医療従事者や患者とのコミュニケーションは、医薬品安全監視の重要な要素です。プロセスは世界的にも地域的にもなることがあります。たとえば一部の診療所や病院には、ある疾患に対する既存の治療法に関して患者の意見やフィードバックを得るなど、患者のために特定の目的を持った特別な学校があります。

安全性情報における患者の役割とは何ですか?

医薬品の開発、評価、許可、監視の過程を通して、さまざまな段階での患者の体験と知識を取り入れることが重要です。患者は治療の合併症や有害事象の特定や報告に関与するべきです。

患者は現在、次のような EMA の活動に関与しています。安全性情報に関して例を挙げると、

  • 患者の代表が現在ファーマコビジランス リスク評価委員会 (PRAC) の正会員になっています。
  • EMA により、患者をヒト用医薬品委員会 (CHMP) での議論に参加させることに関わるパイロットプロジェクトが開始されました。 さらに
  • 患者は現在、疾病管理、生活の質、リスク管理プログラムの実行の可能性といった諸問題の相談を受けています。

有害事象の報告は重要な責務です。有害事象情報の収集、検証、解析によって次のことが可能です。

  • 製品情報や医薬品のリスクとベネフィットのプロフィールを変更する。
  • リスク特定に役立つ。
  • 医療システムが安全でない場合の情報を提供する。

患者は有害事象の報告、たとえば Yellow Card 副作用報告システムや WEB-RADR アプリ使用を通して積極的に参加することができます。疑いのある ADR 報告への患者の焦点は、ある程度重複はあるものの、医療従事者のものとは異なります。新たな安全性シグナルの可能性を生み出し、疑いのある ADR を詳細に説明し、因果関係の可能性や患者の生活への影響に関して有益な情報を提供できます (1) 。

参照文献

  1. Avery AJ, Anderson C, Bond CM, Fortnum H, Gifford A, Hannaford PC, et al. Evaluation of patient reporting of adverse drug reactions to the UK Yellow Card Scheme:literature review, descriptive and qualitative analyses, and questionnaire surveys.Health Technol Assess 2011; 15 (20). http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21545758

 

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