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医薬品の製造。ステップ 6:第 I 相 – 作用機序実証試験

はじめに

患者が新薬を使用できるようになるまでには 12 年以上かかり、すべての研究開発にかかるコストは平均で 10 億ユーロを超えます。

医薬品の開発は、リスクの高い投機的事業です。開発中の大半の物質 (約 98%) は、新薬として市販されることはありません。その理由の多くは、開発中に確認されたベネフィットとリスク (負の副作用) を考慮すると、既に市販されている医薬品とうまく比較できないためです。

新薬の開発は、10 段階のステップに分けることができます。本稿では、「ステップ 6:作用機序実証 – 第 I 相臨床試験。

ステップ 6:作用機序実証 – 第 I 相臨床試験

最初の臨床試験を実施するかどうかは、大きな判断となります。候補化合物の開発プロセスが進むに従い、プロセスに伴う活動の数やコスト、複雑さはすべて増加するためです。

臨床試験を開始する前に、治験申請書 (CTA) を提出する必要があります。CTA には、次に挙げる重要な文書を含めなければなりません。

  • 治験薬概要書 (IMPD): ADME および効果を観察する試験(標的に対する)、毒性安全性情報、医薬品の製造方法に関する情報などを記載します。
  • 治験実施計画書: 試験の実施と結果の評価に関する詳細を記載します。
  • 治験薬概要書 (IB): 試験を実行する医師 (治験責任医師) が体内で試験薬が作用する仕組み (薬理学) を理解できるように、概要情報を提供します。治験責任医師は、これによりボランティアまたは患者に試験の説明を行い、インフォームド コンセントを得ます (以下を参照)。

CTA は、国家管轄当局 (NCA) に提出して承認を受けなければなりません。このプロセスでは、倫理委員会からの意見も求めます。

安全性は最優先事項です。そのため、社内の審査委員会、外部の倫理委員会、および外部の規制当局から承認を得られるまで、ヒトでの試験を開始することはできません。

ボランティア試験 (探索的試験、作用機序実証試験、第 I 相試験)

この試験によって、医者や科学者は、その医薬品がヒトに対して安全かどうかを確認できます。また、その医薬品がヒトの体内でも動物の場合と同じように作用するかどうかも確認します。これらの試験では、医薬品が作用する仕組み、つまり「作用機序」と呼ばれる情報を提供します。また、医薬品が持つあらゆる副次的効果を発見することも目的としています。

第 I 相臨床試験には、およそ 20~100 名のボランティアが参加します。第 I 相試験では特別なユニットが用意され、ボランティアの募集と試験の実施は、ここで行われます。このような試験を実施する医師は治験責任医師と呼ばれ、試験による転帰を判断できるように、治験を実施する資格があります。

最初の臨床試験は通常、健康な男性のボランティアを対象として実施します。臨床試験の詳細は治験実施計画書に記載されていなければならず、次の内容が含まれていなければなりません。

  • 疾病の背景情報 (満たされていないニーズ)
  • 非臨床情報
  • 臨床試験の詳細 (正確な実施内容と時期)、 および
  • 情報の使用方法と分析方法。

試験から得られたすべての情報は、症例報告書 (CRF) と呼ばれる文書に集められます。

また、試験の参加者の安全を保護するため、医薬品の臨床試験の実施に関する基準 (GCP) と呼ばれるガイドラインと規定も多数存在します。

治験実施計画書には、「統計」に関するセクションも設けます。これは、結果の分析に使用する統計的検定です。この手順は試験の開始前に決めておかなければなりません。そうすると、試験終了後に情報がどのように取得され、どのように使用されるのか分かります。

次の 2 つの要素は非常に重要です。

  • インフォームド コンセント (試験で実施される内容について参加者が理解していることと、その一端を担うことに同意していることを確認します)、 および
  • 倫理委員会の審査および意見。

倫理委員会は独立したグループであり、通常は医師、科学者、看護師、非専門家 (「一般メンバー」) で構成されています。この委員会が治験実施計画書 (特にインフォームド コンセント フォーム) を審査し、委員会の倫理的な規制に準拠していることを試験の実施前に確認します。安全性は最優先事項です。臨床試験における参加者の安全性を確保するため、社内の承認、外部の倫理委員会の肯定的意見、国家管轄当局 (NCA) の承認が必要です。第 I 相試験のルールは、2006 年以降厳格さを増しています。これはこの年の出来事を受けてのもので、まれなケースではありますが、B 細胞性慢性リンパ性白血病および関節リウマチを治療する免疫調節薬を使用したボランティアが深刻な副作用を被る事案が発生しました。

安全性は最優先事項であるため、最初の臨床試験は非常に低用量の医薬品をから始めます。

  • 各ボランティアに医薬品を単回投与します。
  • 最初の用量で安全性に関する懸念が認められなかった場合は、用量をわずかに増加させて試験を続行できます。
  • その後は、試験で許容されている最大用量に達するまで用量を増加 (「漸増用量」) します。

これについては、治験実施計画書に記載されています。

試験後は試験結果を分析し、安全性に関するすべての測定項目を評価します。たとえば、次のような項目です。

  • 薬物動態学 – その医薬品に対して身体がどのように反応するか。吸収、分布、代謝、排泄 (ADME) を特定するため、医薬品の血中濃度を測定できます。
  • 薬力学 – その医薬品が身体に何をするか (「効果」)。たとえば、特定の血液細胞に対する医薬品の作用を測定するかもしれません。

この種類の試験は、単回投与漸増 (SAD) 試験として知られています。通常はこの試験の後で反復投与漸増 (MAD) 試験を実施します。この試験では、その名が示すとおり、各ボランティアに対して複数回の投与を行います。

SAD および MAD 試験とは別に、第 I 相試験では他の試験も実施する必要があります。例えば:

  • 食品の影響を確認する試験
  • 他の医薬品を同時投与した場合の影響を確認する試験
  • 他の疾病の影響 (異なる用量の医薬品が必要になる可能性のある) を確認する試験 (腎臓病に罹患している患者など)。

参照文献

  1. Edwards, L., Fox, A., & Stonier, P. (Eds.).(2010).Principles and practice of pharmaceutical medicine (3rd ed.).Oxford, UK:Wiley-Blackwell.

添付文書

A2-1.02.5-v1.1