医薬品の製造。ステップ 2:標的の選択

患者が新薬を使用できるようになるまでには 12 年以上かかり、すべての研究開発にかかるコストは平均で 10 億ユーロを超えます。

医薬品の開発は、リスクの高い投機的事業です。開発中の大半の物質 (約 98%) は、新薬として市販されることはありません。その理由の多くは、開発中に確認されたベネフィットとリスク (負の副作用) を考慮すると、既に市販されている医薬品とうまく比較できないためです。

新薬の開発は、10 段階のステップに分けることができます。本稿では、「ステップ 2:標的の選択。

標的とは何ですか?

疾病は、正常な身体プロセスが変化した場合、または適切に機能しない場合に発症します。医薬品を開発する場合は、何が悪くなったのかを詳細に (分子レベルで) 理解することが重要です。これにより、異常なプロセスを「標的」として修正することができます。「標的」とするのは、過剰に産生されたために正常な身体機能を妨げる分子、正常な量で産生されていない分子、または異常な構造を持つ分子のいずれかです。たとえば糖尿病の場合は、インスリンの分泌が不足しているか、細胞がインスリンに反応していません。また癌の場合は、細胞が異常に増殖することをシグナル発信する化学伝達物質が過剰に見られます。

「標的設定」はどのように機能しますか?

以下の図は、核を持つ細胞と細胞の表面にある受容体を簡単に表現したものです。

  • 核は細胞のコントロール センターとして機能し、遺伝物質が含まれています。
  • 化学伝達物質は受容体を通じて核に情報を伝達することができます。

化学伝達物質ー (このケースでは「成長因子」) が細胞の表面にある成長因子受容体と結合すると、細胞内部でメッセージが生成されます。このメッセージが核に伝達され、細胞分裂を起こすように刺激を与えます。シグナル発信が制御されていない場合、細胞の増殖が癌の発生につながります。癌細胞の受容体を遮断することで核にメッセージが伝達されなくなるため、制御されていない細胞の増殖を防ぐことができます。

受容体を遮断できれば、次のような作用が生まれます。

  • メッセージの伝達が止められる、 そのため
  • 制御されていない細胞の増殖を防ぐ。

つまり、この例の「標的」は成長因子受容体ということになります。

標的の選択の重要性

多くの場合、何が悪くなったのかを詳細に把握することはできません。疾病では複数の異常、つまり「標的」が存在する場合が多く、科学者はどの標的が疾病の原因となっているのかを正確に特定できません。また疾患の原因ではない異常が存在することもあり、そのような異常を修正しても疾病の治療にはつながらないということです。この場合、開発プロジェクトで誤った標的を追求していることになるため、最終的には失敗に終わります。そのため、プロジェクトの対象とする最適な標的の選択が重要な意味を持ちます。

参照文献

  1. Edwards, L., Fox, A., & Stonier, P. (Eds.).(2010).Principles and practice of pharmaceutical medicine (3rd ed.).Oxford, UK:Wiley-Blackwell.

添付文書

A2-1.02.2-V1.1