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医薬品におけるリスクコミュニケーション

はじめに

ほぼすべての医薬品にはある程度のリスクが伴います。ほとんどの場合、このリスクはごくわずかですが、特定されたリスク (副作用の可能性、相互作用など) については添付文書に記載されています。保健機関および製造販売業者 (MAH) は使用中のすべての医薬品を監視し改善する義務を負っています。「リスクコミュニケーション」はこの義務の一部となっています。

リスクコミュニケーションとは

リスクコミュニケーションは有害性と有益性に関する情報や意見を開かれた形で双方向に交換することです。その目的は、リスクについての理解を深め、医薬品の使用に関する意思決定を改善することにあります。したがって、リスクコミュニケーションの対象は以下となります:

  • リスク発生の確率
  • 記載されている有害事象の重要性
  • 有害事象が患者に及ぼす影響。

医薬品を開発している間、リスクマネジメントプラン (RMP) においてリスクマネジメントに取り組まなければなりません。これには、潜在的リスクの最小化と潜在的リスクに関するコミュニケーションの両方が含まれます。

医薬品は、承認時に特定の症状の標的集団においてベネフィット・リスクバランスが好ましいと判断されたことに基づいて、承認されます。しかしながら、現実のリスクまたは潜在的なリスクのすべてが初回の承認時に特定されるわけではありません。加えて、臨床試験という場での有効性は、日常診療において医薬品の本当の有効性を反映していない可能性もあります。承認時に評価された医薬品のベネフィット・リスクバランスは、当該の医薬品の使用が承認された後、必然的に変化することになります。

したがって、以下のことを可能にするシステムを整備することが保健当局と製造販売業者 (MAH) の間の共同責任となります:

  • リスクの確認と分析
  • ベネフィット評価の実施
  • ベネフィット・リスク評価の再評価と特徴づけ
  • 公衆衛生を守るためにリスクを最小化する活動の実施
  • リスクコミュニケーション

リスクの最小化

患者と医療従事者は、医薬品とそのリスクの情報に関して管理され標準化された情報源にアクセスできます。これらは添付文書 (PL) と製品概要 (SmPC) です。

PL と SmPC に加えて、医薬品が不適切に使用されるリスクを管理するための助けとなるものがあります。以下、例を挙げます:

  • パッケージサイズ
    パック サイズが小さいことは、特に過量投与が主なリスクと考えられる場合に、リスクのコントロールに役に立つ場合があります。
  • 医薬品の法的位置づけ
    医薬品が入手可能となる条件を制御することで、その使用や誤用に伴うリスクを軽減できます。医薬品が処方される条件や患者が処方箋の不要な医薬品 (一般用医薬品 (OTC)) を受け取る条件を制御することでリスク軽減が可能になります。

リスクコミュニケーションのプロセスとタイミング

リスクマネジメントとリスクコミュニケーションのプロセスは 5 段階のプロセスです (図 1 参照)。

リスクマネジメントとリスクコミュニケーションのプロセスは、データ収集フェーズ中に「疑わしい状況」についての初期アラートで開始されます。医薬品の MAH は関連法制を遵守して医薬品のリスクの常時監視を行う責任があります。該当する所轄官庁に監視の結果を逐次報告することが求められています。

MAH はまた医薬品のリスクを最小化し、ベネフィットを最大化すべく、適切なすべての措置を講じなければなりません。医薬品に関して企業が提出するすべての情報の正確さを確保することや、新しい情報が入手可能になったら能動的に更新し、また、迅速に伝えるなどの措置を講じなければなりません。

リスクコミュニケーションプロセスの第 2 段階はリスクを特定および分析し、ベネフィットとの関連でリスクを評価することです。これには少し時間がかかります。そして、それは「予防的な措置決定」に必要な不確実な期間が存在することを意味しています。次のフェーズはリスクとベネフィットを評価および定量化することです。これに続くのが、リスクを最小化しベネフィットを最大化する計画の選定です。その最終段階は計画の実施となります。

コミュニケーションプロセスの全体を通して、重要なのは明確で一貫性のあるメッセージがタイムリーに提供されることです。安全性およびリスクコミュニケーションの原則を適用することが推奨されます。この原則は以下となります:

  • 異なる関係者間での適切な協調と協力
  • メッセージは妥当性、明確さ、正確さ、一貫性を有し、措置を講じるにあたって適した時間に適した聞き手に届かなければなりません。
  • コミュニケーションは適切な言葉遣いで適切な聞き手に合わせなければなりません。
  • リスクコミュニケーションは医薬品のベネフィットという観点から提示され、副作用について入手可能な関連情報を含まなければなりません。
  • 安全性の懸念に関係する不安にも取り組まなければなりません。
  • 競合するリスクに関する情報は適切に含めなければなりません。
  • リスクを説明し比較する際には最適な対応が求められます。
  • 安全性の懸念が払拭された時点で、補足情報を有するフォローアップコミュニケーションを発する必要があります。
  • コミュニケーションの有用性評価を推奨します。

リスクコミュニケーションにはいろいろな問題があります。数学の基礎に欠けること、不正確な言葉遣いや構成方法 (リスクの示し方) などの障害が情報の認識に影響を及ぼします。

健康に関するリテラシーはリスクコミュニケーションの最大の問題の 1 つです。患者と医療従事者の双方がリスク情報、特に統計的な観点を解釈したり、利用したり、または記憶することが困難な場合があります。

患者さんにとって、医薬品の大半は医師により処方され、薬剤師によって調剤されることになります。患者さんによるベネフィットとリスクの管理には主に次のようなものがあります:

  • 治療スケジュールと推奨事項をアドヒアランスすること
  • 重大リスクと取るべき措置を把握すること
  • あらゆる不都合な影響について医師、薬剤師また所轄官庁へ報告すること

しかしながら、国によっては、医療従事者の指導なしに直接購入できる医薬品 (一般用医薬品 (OTC)) もあります。患者さんはこうした医薬品の潜在的なベネフィットとリスクを理解し、かつ安全で効果的に医薬品を使用するには何が必要となるかを理解しなければなりません。

リスクコミュニケーションへの患者さんの参画

リスクコミュニケーションにおける患者さんの役割は非常に重要です。患者さんは次のような様々な方法で参加することができます:

  • 自ら医薬品を用いた際に認められた安全性に関する情報を収集すること―患者さんが直接の影響を受けるため、これは重要です。
  • 安全性またはリスクに関するメッセージを下書きする際に相談を受けること、また、そうしたメッセージが妥当で明確で理解できるものであることを事前に確認すること
  • 公的に利用可能な多くの文書の作成に関わること―例えば、公開医薬品審査報告書 (EPAR)、添付文書や安全性に関する連絡
  • 多様なステークホルダーと定期的に対話すること
  • 各種メディア (ソーシャルメディア、プレスリリース等) でリスクコミュニケーションの入手と普及

追加資料

添付文書

A2-5.27-v1.1