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健康関連の生活の質 (HRQoL) の評価

はじめに

「生活の質」という概念は患者にとって極めて重要であり、医療技術評価 (HTA) にとっても重要です。また、評価の難しい概念でもあります。大半の人は寿命も生活の質も重要であると言いますが、「優れた生活の質」の意味は人によって異なることがあります。

生活の質とは何でしょうか。

生活の質にはさまざまな定義があり、これを定義しようと言う試みは今まで何度もなされてきました。健康の定義と同じように、世界保健機関 (WHO) による定義は、その中でも生活の質のより大局的な定義の 1 つです。WHO では、生活の質を次のように定義しています。

「…個人の目標、期待、基準、懸念に関連して、また個人が生活している文化や価値体系における各自の位置に対する個人の感じ方。各自の身体的健康状態、心理状態、自立度、社会的な関係、個人的信念、そして各自の環境の顕著な特徴との関係によって、複雑に影響される幅広い概念。」1

WHO では、生活の質が「ドメイン」と呼ばれる複数の主要領域を含むよう提案しています。

このようなドメインには、さらに複数の項目が含まれています。下記の表 1 を参照してください。

表 1:WHO による生活の質のドメイン
ドメイン ドメイン内に含まれる項目
1.身体的健康状態 (HRQoL)
  • エネルギーと疲労
  • 疼痛および不快感
  • 睡眠および休養
2.心理学的健康状態 (HRQoL)
  • 身体イメージと外見
  • マイナス思考
  • プラス思考
  • Self-esteem
  • 思考、学習、記憶、集中力
3.自立度 (HRQoL)
  • 移動性
  • 日常生活の活動
  • 薬剤や医療援助への依存
  • 作業能力
4.社会的関係 (HRQoL)
  • 人間関係
  • 社会的支援
  • 性行動
5.環境
  • 財源
  • 自由、身体的安全性、安全
  • 健康および社会的ケア:利用しやすさと質
  • 家庭環境
  • 新たな情報やスキルを取得する機会
  • 娯楽や余暇への参加と参加する機会
  • 物理的環境 (汚染、騒音、交通量、気候)
  • 交通機関
6.個人的価値と信条
  • 宗教
  • 精神性
  • 個人的信念
出典: 世界保健機関 WHOQOL-100. 2

上記の表にリストされている生活の質の最初の 4 つのドメインには健康や薬剤および医療技術の使用によって直接影響される可能性のあるものが含まれているのに対し、最後の 2 つのドメイン (環境および個人的価値と信条) は重要でありながらも医療技術の使用 (薬剤を含む) によってそれほど頻繁に影響されない可能性があることに注意してください。健康状態を原因とする生活の質に焦点を絞ったものを、「健康関連の生活の質 (HRQoL)」と呼びます。

治療の価値を理解したい患者、支払者または医療提供者は、最後の 2 つのドメインを含むか、またはやり方を変えずに医療技術によって直接影響を受ける側面により具体的に注力するという姿勢を取ることができます。

表 1 からわかるように、HRQoL は健康状態によって影響される生活の質に対する各自の認識に関係した身体的、心理学的、機能的、社会的ドメインを含む多次元なもの (複数の項目やドメインを含む) です。そして HRQoL を評価しようとする試みは、こういったドメインを捉えようとします。

HRQoL (HrQL、HRQOL、HRQL、QOL とも呼ばれる) という言葉は、HTA コミュニティ内で幅広く導入され、推進されています。また、HRQoL と言う言葉は、「生活の質」という総称と同義で以下のような言葉と同じように使用されています

  • 自己申告の健康状態
  • 患者評価結果
  • 患者報告結果
  • 個人報告結果
  • 患者結果
  • 結果

HRQoL 評価は、さまざまなドメインを導入することにより区別される、患者報告結果 (PRO) 評価の種類やサブセットです。

「患者の健康状態」や「機能状態」という言葉は、こういった評価には患者の視点からの情報が必要なわけではない、つまり PRO であるとは限らないにも関わらず、HRQoL を意味するようにも使用されています。同様にして、患者がどう感じているかの認識について、親、医療提供者、介護者からの情報に由来する結果も存在します。これらは最近になって観察者報告結果 (ObservROs) と呼ばれるようになり、臨床医報告結果 (ClinROs) が含まれています。

健康関連の生活の質を評価する理由。

HRQoL を評価する理由は多数あります

  • 患者や医療提供者だけでなく、支払者も技術 (治療行為や医療技術の使用) が提供する付加価値に関心を持っています。HRQoL は、あらゆる技術による利益の一般的な尺度として利用できます。患者集団は、こういった評価を使用して新たな技術の価値を比較できます。HRQoL 評価はしたがって、HTA プロセスにおける意思決定を支援するために経済的評価での費用に関連して使用されることが多くなっています。
  • HRQoL 評価は患者の心理社会的問題のスクリーニングや監視に使用できるため、また医療行為の監査時に医療提供者に有用な情報を提供します。
  • HRQoL 評価は認識されている健康問題や、医療サービスや評価調査のその他の側面の集団調査で使用できます。
  • 規制機関は、HRQoL 評価を使用して新技術の評価を支援できます。

医療におけるリソースの割り当てを決めなければならない政策立案者、そして HTA 機関にとって、さまざまなタイプの患者において他の技術と比較して新技術がもたらす可能性のある価値を評価できることは有用であり、決定の評価を支援できることもあります。支払者は、科学的根拠のある決定や、治療によって患者に提供できる利益の数値化に関心があります。HRQoL を評価する一般的な手段があれば、数値による HRQoL スコアを計算できます。HRQoL 評価によって、HTA 機関は患者の「幸福」における変化を定量化して見られるようになりますが、そのような手段の設計と展開には定性調査が必要です。

政策立案者および HTA 組織は、このような数値的 HRQoL スコアをたとえば質調整生存年 (QALY) の計算に使用できますが、医療決定における QALY の使い方や、それを使用するかどうかについてもまだ議論が進行中です。3

質調整生存年 (QALY) とは何か。

QALY は健康関連の生活の質 (HRQoL) におけるあらゆる変化を考慮しながら、治療が寿命に及ぼす影響を表そうとするものです。HRQoL は 0 =「死亡」、1 =「完全に」健康という尺度で計算されます (尺度ではマイナスのスコアも許可されます)。

以下は 4 年間の完全な健康を提供する治療に対する QALY の計算例です。


これを HRQoL スコア 0.5 でさらに 4 年間の寿命を提供する治療に対する計算と比較します。


QALY 計算を使用すると、以下のグラフに示すように、対象となる治療があった場合となかった場合の生活の質と量の間の関係が視覚化できます。

同様のグラフを使用すると、治療した場合としない場合の HRQoL の経時的な変化をプロットし、QALY の損益をそれぞれ視覚化できます。以下のグラフではたとえば、治療によって寿命が延びるだけでなく、HRQoL が上昇し、実質的には QALY が高くなります。

表 2:質調整生存年 (QALY) の説明
治療介入 Life-years HRQoL (スコアは 0 ~ 1) QALY
治療なし 2 1.0 2.0
治療 4 0.5 2.0

 

文献 1:医薬品の評価における健康関連の生活の質 (HRQOL) 評価の使用に対する規制ガイダンスに関する査察論文 - http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Scientific_guideline/2009/09/WC500003637.pdf

HRQoL の評価において規制機関が示した懸念に注意してください。まず、二重にカウントしてしまうという懸念があります。以前のトピックで、PRO の測定に使用するドメインと項目はすべて検証を必要とし、重ならないようにしなければならないという件がありました。しかしながら、規制機関はここでは新しい療法が HRQoL と、HRQoL 評価の一部である結果 (疼痛の軽減など) の両方を改善してしまうというシナリオをより懸念しています。

また、HRQoL の改善を主張したい企業は「複数の主要ドメインのすべてまたは大半」において改善を示すべきであるとも提案しています。

論文の最後の部分は、臨床試験におけるこういった手段の適切な使用にかなりの注意を向けています。また、このような開発中の新薬の HRQoL 手段を実験実施前に検証することが勧められています。こうすることで疑わしいデータ収集が回避されます。複数の異なる HRQoL 手段が展開され、1 つだけが療法に対して観測可能な応答を示すようなケースが想像できます。その応答は果たして薬剤の性質によるものなのでしょうか、それとも手段が関係しているのでしょうか。使用前に手段が検証されていなければ、評価者にそのような疑問を残すことになります。

論文ではまた、HRQoL 測定の考察の解釈が困難になる可能性があるその他複数の要因を指摘しています。1 つは患者が治療を受けていることを知っている場合です (非盲検試験)。治療を受けていることを知っている患者は、主観的情報の提供に前向きであることがわかっています。薬剤の効果なのか、患者が新しいものにアクセスすることによって (そしてそれが効いているかもしれないと思うことによって) 得られる満足感からくるものなのかを評価者が区別するのは難しいことがあります。

最後に、HRQoL は重要であるものの、短期的な評価では個人の全体的な幸福への洞察が本当に提供されるわけではないと指摘し、むしろこれは、長期的にそしてより意味のある期間において患者がどのようになる可能性があるのかに関する情報は提供せずに、その患者が日々どのような状態なのかを示すものです。

HRQoL の評価に対する現在のアプローチ

適切な測定手段を必要とする HRQoL に関連した側面やドメインは多数あります。「1 から 10 で評価すると、あなたの健康関連の生活の質はどのくらいですか。」と患者に質問するだけでは、限られた情報しか提供されません。患者は同じ条件に対して異なる見方をし、異なる報告をします。HRQoL を評価するには、通常、患者にとって何が重要なのかに関するさまざまな側面を捉える必要があります。

たとえば、この単純な質問に対する全体的な答えはその日その日では同じかもしれませんが、心理学的には悪化していても、個人の自立度が改善しているかもしれないということは考慮しません。つまり、重度のうつ病にかかっているがよく動ける患者と、身体的機能はかなり制限されているが感情的には安定した患者を区別するわけではないのです。患者によっては、特定のドメイン (心理学的機能対身体的機能など) が他よりも重要であることを考慮する必要があり、これが患者が報告する HRQoL のステータスに反映されます。

どの PRO でも同じですが、HRQoL の把握に使用される手段は次の特徴を備えていることが理想的です。

表 3:重要な評価特性。Feeny による改編 (2013 年)4
要求される特性 定義
信頼度 信頼性ある手段は一貫しており、再現性があります。
試験・再試験信頼度 試験・再試験信頼度は、ある 2 つの時間において安定した人々におけるスコアの一致を調査します。
内部整合性 特定のドメインにおける健康状態や機能状態の評価を意図した項目の相互相関性と他のドメインの評価を意図した項目との非相関性の程度です。
社内および社外オブザーバー信頼度 評価全体または個人間での一致の度合いです。
妥当性 手段が評価しようとする概念を正確に反映することを言います。
内容の有効性 その項目がどのくらい合理的であるか、またどの程度対象となる意図したドメインを反映しているかを示します。その手段の内容は意味を成すものでしょうか。含まれている項目は対象となるドメインに関連しているでしょうか。項目はそのドメインに関連する全範囲を網羅しているでしょうか。項目は回答者にとってわかりやすいものでしょうか。
基準の有効性 同じ概念の代表的基準と手段との間の一致度です。
構成概念の有効性 手段を予想通りに実施できる能力です。項目とドメインとの間の関係が推測的な仮説に適合し、手段と患者および患者集団の特性との間に論理的な関係が存在するという証拠です。
収束の有効性 収束の有効性は、同じ概念または構成概念の手段間に、適度なまたは強い関係があるという証拠を言います。
識別の有効性 識別の有効性は、異なる概念または構成概念の手段間に関係が存在しないという証拠を言います。
横断的な構成概念の有効性 ある時点での比較に基づいた構成概念の有効性の証拠です。
反応性 (長期的な構成概念の有効性) 意味のある変化があったときにそれを捉える手段の能力です。
解釈 手段によって提供されるスコアに意味付けをする能力です。

HRQoL は、アンケートの形態でたとえば 36 項目の Short-Form (SF-36®) Survey5 または EuroQoL 5 Domain (EQ-5D)6 などの「ツール」を使って評価されることがよくあります。こういったツールは、その結果を数値に変換できるため、経済学的評価および HTA の分野で幅広く使用されています。これによって研究者はあるタイプの患者における HRQoL の変化を別のタイプの患者における変化と比較できます。HIV には HIV-QL31、癌には EORTC QLQ-C30 など、特定の疾患にはより具体的なツールが存在します。

他の PRO と同様、臨床研究における HRQoL 評価の使用は慎重に行う必要があります。HRQoL 測定は、誤った回答を評価したり、現実を不正確に伝えたりしないよう、調査開始前に慎重に計画し、検証する必要があります。

HRQoL を評価する別のアプローチ。

その持続期間や (健康関連の) 生活の質以上に、治療を受けることには重要な側面があります。この中には、家族や介護者の生活の質や、患者にとっての便宜性も含まれます。また、評価は満たされていないニーズを考慮していなかったり、高齢者や重症者 (わずかな健康的な利益を大きく評価する可能性のある患者) が得られる付加的な健康を識別しないかもしれません。

HRQoL 評価の分野は、情報や議論にあふれています。新しい評価を提案する人もいれば、既存の評価の改良を提案した人もいます。何をどのように HRQoL で評価するかについて、さまざまな利害関係者間で合意にたどり着くのは困難です。今までの医療制度に関する決定がすべて 1 つの評価に基づいていたら、改善を議論する際に一部の制度は必要以上に困難に直面してしまいます。専門家の間での唯一の意見の一致は、評価への投資は評価に最低レベルの質が保証される場合に限り好ましいというものです。

このジレンマは、統計学者である John Tukey の以下の引用でよく説明されています「誤ったものを高く評価する、特にこれはよくあることですが、誤ったものが実際に正しいものの指標として使用される方が、正しいものを低く評価するよりもずっとひどいことが多いのです。」

患者の役割

HRQoL 評価は、患者報告結果 (PRO) の一種です。患者には、臨床開発の初期段階におけるこういった評価の展開やデザインで、自分たちの視点が考慮されていることを確認する機会があります。また患者は、HRQoL 評価が品質基準を満たし、そのデザインと開発において自分たちの視点が含まれていることを積極的にレビューし、支持できます。

患者は以下も行うことができます。

  • HRQoL 評価および HTA 提出や規制当局に対する製造承認の提出で使用される HRQoL において要求される変更の重大さを念入りに調べる。
  • 特定の HRQoL 評価を支持する、そして
  • 自分の経験を HRQoL の主な概念的ドメインを反映するように説明する。

参照文献

  1. World Health Organisation.‘Introducing the WHOQOL instruments’.WHOQOL:Measuring Quality of Life.Retrieved 11 February, 2016, from http://www.who.int/healthinfo/survey/whoqol-qualityoflife/en/
  2. World Health Organisation.‘The Structure of the WHOQOL-100’.WHOQOL:Measuring Quality of Life.Retrieved 11 February, 2016, from http://www.who.int/healthinfo/survey/whoqol-qualityoflife/en/index4.html
  3. ECHOUTCOME (2013).‘EUCHOUTCOME Report Summary.’ European Commission:Community Research and Development Information Service (CORDIS).Retrieved 11 February, 2016, from http://cordis.europa.eu/result/rcn/57549_en.html
  4. Feeny D.H., Eckstrom E., Whitlock E.P., et al. (2013) ‘Patient-Reported Outcomes, Health-Related Quality of Life, and Function:An Overview of Measurement Properties.’ A Primer for Systematic Reviewers on the Measurement of Functional Status and Health-Related Quality of Life in Older Adults [Internet].Rockville (MD):Agency for Healthcare Research and Quality.Retrieved 12 February, 2016, from http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK169156/
  5. RAND (2016).’36-Item Short Form Survey from the RAND Medical Outcomes Study.’ RAND Corporation.Retrieved 12 February, 2016, from http://www.rand.org/health/surveys_tools/mos/mos_core_36item.html
  6. EuroQoL (2016). ‘About EQ-5D’. Retrieved 4 July, 2021, from https://euroqol.org/eq-5d-instruments/

A2-6.07-v1.2