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個別化医療の新しい研究分野

  1. 個別化医療を前進させる新しい研究分野があります。

分子遺伝学

現在の研究によって、細胞レベルや分子レベルで疾患について多くのことが分かります。遺伝子に特定の変化 (変異) があると細胞の機能や疾患の発症の仕方が影響を受ける場合があります。類似した症状の疾患は、同一の疾患として診断される可能性があります。しかしながら、そうした疾患は異なった遺伝子変異から生じている場合があります。

エピジェネティクス

この発展しつつある分野は、疾患における変異の理解に役立ちます。エピジェネティクスは、DNA 配列に変更を加えることなく、どのように遺伝子をオン・オフしたり、調整したり (働きを強めたり、弱めたり) できるのかを研究する分野です。エピジェネティックな変化は、患者の治療に対する反応に影響を及ぼすことがあります。その変化が、環境やライフスタイルの要因、たとえば紫外線暴露、食事、喫煙、ストレスに応じて生じるからです。最終的には、個別化医療は個人のエピジェネティクスを考慮することになります。

バイオマーカーと医薬品の開発

細胞レベルや分子レベルで生じるプロセスは「バイオマーカー」を使用して測定できます。以下にバイオマーカーの例を挙げます。

  • 血圧や体温などの生理学的指標
  • 酵素やホルモンなどの生体物質 (「生化学物質」)
  • 遺伝子の変化
  • 磁気共鳴画像 (MRI) の画像

標的治療を生み出すために、バイオマーカーが医薬品開発においてますます使用されるようになっています。以下が期待されます。

  • 患者にとっての結果の改善:医師は、個人ごとに効き目が高く、重度の副作用リスクが低い医薬品の選択が可能
  • 医薬品開発の効率の改善、非臨床試験と臨床試験の効率化、時間消費の減少、安全性向上

薬物遺伝学またはゲノム薬理学

広く使用されるようになっているバイオマーカーの 1 つのタイプは、個人の遺伝子情報、すなわちゲノム情報です。遺伝的特徴、すなわちゲノミクスが治療に対する個人の反応にどのように影響するのかに関する研究は薬物遺伝学やゲノム薬理学として知られています。これらによって、個人の遺伝子構成に応じて治療を合わせることが可能になります。今日市販されている多くの医薬品は、治療が個々の患者にとって安全であるように、処方前に遺伝子検査を必要とします。例えば:

  • 医薬品アバカビルの処方前に HIV 患者は「HLA B*5701」という遺伝子変異がないか検査されますが、これは遺伝子変異が医薬品に対する副作用と関連があるためです。

さらに、市販されている他の医薬品に提供されている情報によって、医師は医薬品の処方時に患者のゲノム情報をどのように使用すべきか示唆されます。ゲノム情報は、当該の医薬品が患者にとって最善の選択であるかどうか、最適な用量はどの程度になるのか判断する上でも役立ちます。例えば:

トラスツズマブ (ハーセプチン) は、ヒト上皮成長因子受容体-2 (HER-2) に対抗する遺伝子標的モノクローナル抗体で、早期の乳癌の治療薬として承認されています。HER-2 は乳癌のおよそ 20% に過剰発現し、乳癌細胞の増殖を加速させる過剰な信号を細胞内部へ発生させます。HER-2 が高いレベルにあり陽性の検査結果の出た患者のみが、トラスツズマブによる治療の恩恵を受けることになります。HER-2 は一部の乳癌細胞の表面に存在し、細胞膜を貫通します。トラスツズマブは、乳癌細胞の表面にある HER-2 に付着し、増殖信号を遮断する働きがあります。信号を遮断することで、トラスツズマブは乳癌の増殖を抑えたり、増殖速度を低下させることができるため、免疫標的治療の例となります。

バイオバンク

バイオバンクを使用する研究は、個別化医療の開発にあたっては特に重要なものであり、バイオバンクは新しい医薬品の臨床試験においてますます使用されるようになっています。バイオバンクは、患者や健康なボランティアによって提供された血液や組織のサンプルを基本的に大量にかつ系統的に集めたものです。バイオバンクはまた、提供者の病態、ライフスタイル (食事、喫煙等) や他の要因に関するデータに関して慎重に収集されたデータを含みます。バイオバンクによって、非常に多くのサンプルの細胞や分子を調べることが可能となり、この情報を臨床データなどのデータとリンクすることが可能です。このように情報を組み合わせると、以下の点に関して個人同士が異なっている理由を理解しやすくなります。

  • 疾患の種類
  • 疾患の重症度
  • 治療に対する反応の程度。

入手可能なサンプルが多くなればなるほど、こうした試験はより効果的になります。バイオバンクは多くの国で立ち上げられています。「EuroBioBank」は、異なる国々が結びついてできたバイオバンクの例となっており、さらに多くのデータを研究用に入手できるようになっています (この場合では、まれな疾患に対する研究)。

参照文献

  1. beyondthedish.wordpress.com による「How Herceptin affects breast cancer cells (ハーセプチンは乳癌細胞にどのように影響を及ぼすか)」は、Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs 3.0 Unported License に基づきライセンスされています。
    詳細については、https://beyondthedish.wordpress.com/2012/06/04/smart-bomb-successfully-treat-advanced-breast-cancer-in-clinical-trials/ を参照してください。

添付文書

A2-1.08.2-V1.6